終章
第63話 戦後、メレオン島にて
サーシャが導いたベータ種の新しい世界。
ベータ種が平和な世界を構築し、子孫を作っていく。
老いていくだけのアルファ純血種に対してもベータは優しく接する。
アルファ種の多くはベータの子供達を自分の孫の様に目を細めて見守り、安らかに眠って行った。まさに未来でマーキュリーが学んだように、穏やかに、しかし百年もかからない短期間で種の交代が行われたのだ。
キリーは自らがウイルスで起こしたこの事態を厳粛に受け止め、カプセルで眠るアイリスのクローンを自らの贖罪の様に死ぬまで見守り続けた。そしてアルファとジーンのクローンもアイリス同様に手厚く保護した。カプセルはメンテナンスフリーで何千年も持つ優れた装置であったが、キリーはまるで家族と暮らすようにカプセルと一緒に暮らしたのだった。
メレオン島の秘密を知っているのはサーシャとキリーくらいであった。キリーは晩年、メレオン島のスカイと連絡を取り合って、カプセルをメレオンに移した。自分の死後、カプセルの管理はメレオンの人達に委ねることにしたのだ。
◇ ◇ ◇
年齢を重ねたレナとエリス、さらに年老いたスカイとキリーは、カプセルを見ながら海岸で語り合った。
「スカイ、キリー。二人ともすっかりお爺ちゃんね」
「レナ、お前はなんで老けるのが遅いんだ? 差があるな」とスカイ。
「ふふ。一番年下ですからね」
「平和になった。この海岸は本当に美しいな。アイリスも見れるかな?」
キリーがカプセルを見ながら呟く。
「いつ起きるんだろうね?」
レナも呟く。アイリス、ジーン、アルファ3人のクローンがいつ解凍されるようにジーンが設定したのかはわからない。アイリスのクローンはその若く美しい姿で眠り続けている。エリスが言う。
「わからないけど、私達の子孫が彼らの目覚めに立ち会えるといいね」
キリーが、スカイが、そしてレナ、エリスの人生がメレオンで過ぎて行った。そしてまた何百年もの月日が経った。カプセルはメレオン島の海岸沿いに目立たないように隠され、何百年も経つと次第にその存在は忘れられるようになった。
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