第61話 核弾道ミサイル

 リリアムでは核弾道ミサイルの着弾に向けて脱出、またはシェルターへの移動と迎撃準備が始まっていた。いくら強度が高いドームの外壁でも核爆発には耐えられない。


 迎撃に関しては5割以上の確率で着弾前に上空でミサイルを排除することが可能だが、逆に言うと、10発も来るとなると、数発の着弾は必至である。


 涙を拭いたアイリスは決心した。ベータ2のアイリスならば着弾寸前でミサイルを破壊することができるかもしれない。破壊した瞬間に爆発した場合は、ただでは済まないが。


「ジーン、サーシャ。私が全力でリリアムを守ります」

「私も行くわ。アイリス」


 ジーンは悲壮な決意を持ってアイリスに告げた。

 サーシャがジーンに言った。


「ジーン。お別れになりますか?」


「ええ、多分。サーシャ、これから先は頼むわね。平和な世界を。今回あった件は後世には伏せておいて。悲惨な種の変換があったことを知った人は傷ついてしまうから。今後は絶対に人種差別や戦争を起こさないように皆を指導してね」


「わかりました。ジーン、アイリス。できれば…… また会いましょう」


 サーシャは涙が一筋流れたが、しっかりと言った。


 アイリスとジーンはサーシャに微笑んだ後、ドームの屋上に向かった。


 住民はリリアムから離れる者、地下シェルターに逃げ込む者と対応が分かれたが、わずかな時間では逃げ切れない者も大勢いた。


 一方リリアムに攻撃していたX国の軍隊は核ミサイル攻撃とアマン死去の報を相次いで受け、離散中であった。一刻も早くリリアムから離れなければ核爆発に巻き込まれる。しかし彼らは気が付いていなかった。たとえ逃げ延びでも、彼らはもはや子孫を残すことはできない。


 ワクチンを打っているのはリリアムのベータと、それと同居している選別された大人しい性質を持つ男性だけである。アルファの女性が不妊化ウィルスにより子を産めなくなるため、純粋なアルファ種は途絶える。


 リリアム内のベータの一時避難場所、丘で遮蔽された地域に多数のベータが逃げてたどり着いていた。


 その先に連合軍が数名いた。中央にアルファが立っている。他の大多数の兵士はアルファの指示で遠方に避難中である。しかしアルファを含め漏れなく連合軍全員がウイルスに感染することが確実であることがX国からの連絡で知らされた。さらにアルファはベータの避難住民からの情報で、彼女達はワクチンを打っているためウィルスには感染しないことを知った。


 核ミサイルが間もなく着弾する。この避難地点はリリアムから離れており爆風からも避けられる地形にある。アルファが避難してきたベータ群衆に向かって立ちあがって叫んだ。


「ベータの皆さん。こんな事になり申し訳ない。これで償える訳では無いがアルファ種の最後の一人として言っておきます。今回のような過ちが二度と起きないように子孫に伝え人類の未来を生きてください。この世界を大切に守ってください。私達はやがていなくなります。世界をみなさんに託します。さようなら」


 アルファはそう言うと、背中に背負っていた飛行用噴射装置を点火した。リリアムのドーム屋上に向かって飛んで行った。彼もまた核ミサイルからリリアムの住民を守る決断をしたのである。

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