第60話 地獄へ道連れ

 しばらくしてから担当者がアマンに向かって言った。


「10基まで準備完了です。残りは5分ほどで大量リロードし発射可能です」

「よし。まず10基を発射しろ」

「はい」


 担当者が悪魔の発射スイッチを押した。時間差で10基の核弾道ミサイルがリリアムに向けて発射された。リリアム側は大騒ぎとなった。着弾まで30分ほどしかない。

 その時、コントロールルームのドアが蹴破られた。ベータの暗殺部隊だ。2人の女性兵士が銃を構えてアマンに向ける。アマンは凍り付いた。


「貴様ら……」


 床に倒れているキリーがベータに向かってわずかな声を振り絞る。


「やつは靴に銃を仕込んでいるぞ……」


 ベータがアマンを注視したままキリーに答える。


「わかってる。あなたは助けるからじっとしていなさい」

                               

 アマンは観念した。ベータ相手では銃でも念力でも簡単に殺される。

 ベータがアマンに要求する。


「飛行中の核ミサイルの起爆を無効にしなさい。出来る筈」


 アマンは息を飲んで答えた。


「わかった」


 アマンはゆっくりコンソールに近づいた。無効化スイッチの場所は知っている。傍で制御担当者が青ざめた表情でアマンの動きを見守る。


 しかし、突然アマンは手に持っていた銃でコンソールを乱射した! コンソールは無残にも破壊された。


「な!」


 ベータが目を丸くした。アマンが悪魔のように笑う。


「これで無効化はできなくなったよ。残念だな」


 ベータはアマンを繰り返し銃撃した。ついにアマンは多数の銃弾を受けて、キリーと同じようにその場で崩れ落ちた。ベータは、かろうじて残りの十発の発射は食い止めた。


 しかしアマンの手にはまだウイルスの放射起動装置が残っている。キリーが声を振り絞る。「やつが持っているウイルスの放射装置を取り上げるんだ……」


 しかし、遅かった。断末魔のアマンはそのスイッチを押した。キリーの説明を聞いていた担当者が悲鳴を上げて制御室から逃げ出した。キリーがベータに言う。


「今出ているガスは無害だ。しかし世界中に不妊ウイルスがばら撒かれた。人類は終わりだ」


 ベータの二人はリリアムのサーシャに連絡する。


「サーシャ、見て分かっていると思いますが、アマンは殺害しましたが核ミサイルの起爆無効化は失敗しました。リリアムが危険です。それから不妊ウイルスがリリースされてしまいました。ワクチンを打ったリリアムの人間は大丈夫ですが、それ以外の人類はもう子供が産めなくなります」


 ベータ二人は重傷のキリーを抱えて官邸を出て行った。

 アマンは制御室内で絶命した。――サーシャの予言通りだった。


 ジーンは世界中の人々に向けて緊急発信した。


「緊急事態です。リリアムが間もなく核ミサイルで攻撃されます。我々は最善を尽くしますが多数の死傷者が出ることは避けられません。残念です。それから最悪のウイルスがX国によって世界中にばら撒かれました。不妊化ウイルスです。アルファ種は緩やかに絶滅します。これはこのウイルスを開発した私の責任でもあります。私は先に地獄に向かいます。さようなら」

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