第58話 暗殺者と核ミサイル
翌日、X国軍は再び進軍を開始した。前日よりさらに強力な兵器と作戦を携えてベータにリベンジするつもりであった。
再び初日同様の泥沼の戦況に突入した。死傷者が少ない分、均衡した戦いが続き展開が読めない。それでもベータの能力が一段優れている
アイリスはリリアムの上部に立って構え、戦況を観察していた。時折強力なレーザーで、X国の無人攻撃機を撃ち落としていた。
アマンは地団駄を踏んでこの様子をモニターで見て、気を揉んでいた。そんな首相官邸に突然、異変があった。無線連絡が入る。
「首相、官邸敷地内に怪しい者が数名入り込みました。応戦していますがどうもベータの特殊部隊の様です」
「何い! 返り討ちにしろ、絶対に建物の中に入れるな」
アマンは叫んだ。首相官邸の警備チームは先鋭の兵士達で構成されており、敷地には各種のセキュリティ装置が備え付けられている。ベータと言えども簡単に攻略することはできない。
しかし今回の侵入者はベータの中でも最高の技術を持つ特殊部隊である。キリーは心の中で思った。
(なるほど、さすがサーシャだな。このタイミングで特殊部隊に官邸を襲わせるとは。これは面白くなってきたぞ)
キリーはモニター室に向かった。ベータ特殊部隊と官邸警備隊との対決を監視し、警備隊に指示を出すことにしたのだ。
一方、そんな冷静なキリーに対して、アマン首相の顔は興奮で紅潮してきた。サーシャの言葉が頭にこだまの様に響く。
『あなたの人生はあまり長くありません。この戦争の最期に亡くなるでしょう』
「くそっ、くそっ、俺はこいつらに殺られるのか?」
するとアマンは突然、執務室を飛び出した。キリーはその時既にモニター室にいてアサシンとの攻防について指示を出していたためアマンの動きには気が付いていない。
アマンは特別制御室に向かった。そこは核ミサイルを発射するためのコンソールがある部屋だった。キリーとは別の補佐官や制御室のセキュリティ担当と押し問答の末、アマンは制御室に入った。
「もう時間が無い、核を使う。殺られる前に片をつけるんだ」
補佐官がなおもアマンを制止しようとする。
「首相、手続きが必要です。抑えてください」
アマンは護身用の特殊銃を補佐官に向けた。
「俺を暗殺しにベータの特殊部隊が来ている。リリアムでは我が軍が劣勢になっている。今核を使わずにいつ使うんだ!」
補佐官は自身に向けられた銃を見て、両手を上げてブルブル震えた。
「キーをよこせ、それから目標をリリアムにセットしろ。20発だ」
制御担当者は青ざめた顔でキーをアマンに渡し目標の座標をセットし始めた。
アマンはキーを使って核ミサシルの起動スイッチのプロテクターを外す。
「目標セットしたか!」
アマンが叫ぶ。
「まだです」
「早くしろ!」
担当者が何とか設定し終わった。
「終わりました」
「よし」
モニターにミサイルの経路が表示され、リリアムの映像が出てきた。アマンが補佐官に叫んだ。
「我が軍に退避を命じろ、これからリリアムに核攻撃を行う事を伝えるんだ」
核使用の緊急連絡が軍全体に発信された。それを傍受したキリーが慌てた。
「何だって? 気が違ったな首相!」
それと同時にアマンは発射スイッチを押した。
――しかし、ミサイルは発射されない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます