第57話 X-Day 戦いの日

 Xデーの朝が来た。皮肉にも穏やかな快晴の日だった。一筋の光がブルームフォーテーン郊外のX国軍の手前で大爆発を起こした。同時にX国内でも複数の箇所で爆撃があった。全てX国軍の自作自演である。


 アマンはベータからの攻撃があったと公表し、直ちに停戦を破棄した。ありもしない多数の死傷者を報告し、最後の戦闘が開始されたのだった。


 X国軍はリリアムに向けて進軍し、リリアムに猛烈なミサイル攻撃を開始した。強固なリリアムのドームも執拗なミサイル攻撃に破損し内部の被害が出始めた。


 アルファら連合軍は、最初X国軍に攻撃を止めるように警告を出したが、X国軍はそれを無視した。仕方が無いのでアルファは人的被害を避け、主としてX国軍の無人攻撃兵器を破壊する作戦を開始した。X国軍はそれすら無視して、ひたすらリリアムドームを攻撃し続けている。


 ◇ ◇ ◇


 攻撃は3時間以上続き、午後に入った。ドームの外壁はかなり損傷しているが、X国側が想定していたよりも内部の破壊が進まない。ベータ側の事前の防御が功を奏している。アマンはそれをモニターで見て焦れてきた。


「なぜ、攻撃が進まないんだ。予定より随分時間がかかっているんじゃないのか?」


 キリーが平然とした顔をして言う。


「そうですねえ、随分リリアム内部の防御を強化していますね」

「それから、あの連合軍どもはなぜ我々の邪魔してるんだ?」

「どうも戦いを止めさせようとしているようですね」

「アルファのやつ!」


 次第にリリアム側からX国軍への反撃が強くなってきた。アイリスの姿も遠くに見える。アイリスを先頭にしたベータの攻撃は相変わらず強力だ。X国軍の被害が出始め最前線が徐々に後退していく。


 ベータ2は戦いの女神。


 アイリスが両腕を天に突きあげる。

 その両手の先に青いプラズマが発生し、徐々に球状の光が大きくなる。


 X国の兵器に狙いを定める。周りに敵兵士が多数いる。

 兵士の姿が涙で歪む。


 ――彼らは悪くないのに!

 その涙は一筋、アイリスの頬を流れ落ちる。


「ごめんなさい」


 両手を前方に倒す。強烈な光がアイリスの両手から放たれる。

 兵器も、そして兵士も…… 一瞬で消滅した。


「ごめんなさ……」


 アイリスは嗚咽をもらした。

 視界は涙で何も見えなくなる。


 戦いの女神が流す涙であった。


 

 ◇ ◇ ◇



 アルファが連合軍部隊に通達した。


「X国軍側への攻撃は停止。次はベータ側からの攻撃からX国軍を守れ。但しベータの兵士には一切攻撃するな。人的被害が無いようにしろ」


 連合国兵士たちは、アルファ司令がまた無理な注文をすると嘆いたが、慣れてもきた。司令はとにかく人的被害を最小化することをいつも最優先にするからだ。


 こうしたアルファの介入もあり、戦況は一進一退となり混沌としてきた。夜に突入した頃、X国軍は一度ブルームフォーテーンに完全に引いた。想定外だった。

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