第55話 プロポーズ?

 二人はメレオン島への移住について、長時間話し合っている。スカイは5杯目のコーヒーを飲み干し、レナは椅子に寝そべった。疲れてきたのか行儀はあまり良くない。スカイが言った。


「まとめるぞ、最初の移住者たちは俺とお前が中心になって他の8人程度? をリードする。場所は極秘だから、外界の人達に知られないようにするが、今日のお前の様にカムフラージュして外界に行って、例えばアルファに逢ったり、物品の取引をすることは可能だと。大事なのは世界中の技術や学術的な資産を守り、外界の人類が戦争などで滅ぶようなことがあっても、メレオン島の人間は生き残り、人類を復活できるようにすること、だな」


「その通り、随分時間がかかったわね。で決心はついた?」


 レナはすっかりタメ口になってきた。


「うーん、まあ」

「じれったい人ね。私はジーンから問われて1分で腹を決めたよ」


「お前、こんな人生に関わる重要なこと、そんなに簡単に決めるなよ」

「私がどうして決めたか分かる?」


「分かるか、そんなもん」

「ジーンがスカイを連れて行けって言ったからよ」

「え!」


 スカイは変な汗がじわっと滲んできた。どういう事だ? いや理解はできるが、心の準備が全くできていなかった。


「いい? はっきり言うとあなたの選択枝は一つだけ。だから早く決めて」


 そんなに外堀を埋めなくてもいいのでは? 自分の判断で決めるつもりだったのに。スカイは再びレナを、レナの顔をじっと見つめた。


 おそらくこの計画、この移住メンバーが意味するところは…… おっと、テレパシーを遮断してと。こいつと一生暮らすという事だな。しかも子孫を残さねばならん。レナか……


「何見てんのよ、私じゃ不満?」


 読まれたか? いや読まれてはいないはず。


「不満は……ないが、会って2回目でこの決断か…… お前は大丈夫なのか?」

「大丈夫だからこうして誘ってんじゃないの! もう! いいのね。決まりっ!」


 そう言いながらレナの顔がみるみる赤くなった。


 スカイの正式な回答を待たずして、スカイの島流しがレナによって確定した。

(島流し型 新婚旅行だな)

 

「2週間後に迎えに来るから、準備しておいて! こっちの人達への挨拶とか仕事の引き継ぎも忘れずにね! それから今日はこれから一日中、私につきあいなさいよ。初デート!」


 スカイはレナがこんなに強引な娘だとは思わなかった。こんなに好みの性格だとは……


 苦笑いして、施設の人に外出する旨を伝えに行ったスカイだった。

 レナは一人でにやけて鼻歌を歌った。


(なんか人生明るくなってきたかも。ジーン、ありがとうございます) 



 ◇ ◇ ◇


 二週間後、垂直離着陸機がスカイの自宅前に降り立った。レナが機体から出てきた。それこそ新婚旅行に行くとでも言うような服装をしている。今日は髪の毛も目の色も地のままだ。一切カムフラージュは無い。スカイは同乗してきたスタッフに荷物を渡す。レナが言った。


「迎えにきた」

「ああ、分かってる。ありがとう」

「この前のデート楽しかったね」

「ああ、疲れたけどな」


「行こう」

 レナが言った。


「少し待って」


 スカイはそう言うと、振り返って住んでいた街を眺めた。施設にいたベータ達、スタッフ、それからアルファや家族、学校の友人達、今まで関わってきた人達を思い浮かべた。もうここに戻ってくることは無いだろう。


 そう思うとみんなの顔が、そしてこの風景が愛おしく思えてきた。これからは新しい地で新しい街を作って行かなければならない。最低でもここより素晴らしい世界にするんだ。スカイはそう誓って、レナを見た。レナは優しく頷いてくれた。


 二人は寄り添って機体に乗り込んだ。


 垂直離着陸機はゆっくりと浮上した。メインエンジンが唸りをあげて出力を上げると、レナとスカイを乗せてメレオン島へ向かって飛び去って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る