第51話 策略

「アルファ、あの提案の意図について伝えたいんでしょう。その思いつめた表情を見れば察しがつく。言う必要はないわよ。悪いけど彼らの考えや行動は推測つくわ」


「そうなのか?」

「ええ。リリアムに入ったのが運の尽き。飛んで火にいる夏の虫なのよ」


「どうするつもりだ?」

「さすがに言えないわ。それからキリーって男は策略家だから、実際にどう推移するかは正直わからないし」


「分かった。なるべく双方の犠牲者が出ないように考えてくれ」

「もちろん」


 ジーンは遅れて控室に入ると、サーシャとアイリス、他数名の幹部がすでに集まっていた。


「遅れてすみません。アルファから得た情報は何もありませんでした。さて、キリーの提案ですけれど、録音データ等から我々を油断させてからリリアムに総攻撃を仕掛ける可能性が非常に高いです」


 サーシャが言う。

「あのキリーの最後の条件は何の意味があるんですかね?」


 ジーンが意見を述べる。

「おそらく、我々の攻撃をカムフラージュして起こすんでしょうね。それをベータによる攻撃として公表して、停戦破棄、総攻撃の理由とするんでしょう。昔からよくある、開戦のための謀略、常套手段ね」


「何て汚い……」声が出る。


「こちらも裏をかきましょう。どうやら総戦力をリリアム近郊に集結させる筈だから、こちらも強力な準備をしておいて、一斉に反撃する。ただし相手側の怪我人も極力減らすために、火器は最小限、非致死性の兵器をメインにしましょう」


「そうしましょう」


 他のメンバーも賛成した。結局どう転んでもX国側は真剣に停戦する気が無いことが明確になった。ならば戦うのみだ。


 夕方の交渉で、サーシャがキリーに回答した。

「提案に合意するわ。停戦の間は変な動きをしないようにね。何か妙な戦略を取れば強烈な反撃をしますからね」


 キリーは満足した。サーシャの最後な一言もそれが何を意味するか十分理解していた。(いよいよリリアム近郊での大きな戦いになるな。シナリオ通りだ)


 アマンはそんな駆け引きは露知らず上機嫌となった。見かけ上交渉がまとまったからだ。交渉決裂より停戦合意は国際的な印象がかなり良い。翌日の最終日までに合意文書を作成して、最終日は調印のみ行うこととなった


 その晩、キリーが盗聴した情報、特にジーンのラボの情報を精査した。モニターに映る情報を無言で見ていたキリーの目が光った。


 ……ウイルスの設計データだ。ジーンのやつ、こんなものまで。


 それは、致死性のウイルスでは無かったが、時間をかけて敵を殲滅させることが可能な恐るべき兵器となる得るものだった。


 ……不妊化ウイルス。しかも感染力が非常に強い。人類を絶滅させるつもりか?


 ジーンは人種の人口調整のため出生数を制御する研究をしていたが、その過程でこのウイルスができていた。もちろんジーンは、このウイルスを何かに使うことは考えていなかった。

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