第50話 キリーの提案
午後になった。キリーがジーンに提案を伝える。
「サーシャ、ベータのみなさん、全面戦争になるのは誰もが望んでおりません。そこで停戦協定に関して首相と再検討しました。次の案ではどうでしょうか?」
サーシャとジーンがキリーを睨む。アマンは渋い顔をして目を瞑っている。キリーが提案を話し始めた。
「次の条件で一時停戦します。まずは公的にはリリアムの管理は保留としながら、実質的にはベータによる自治を黙認します。黙認することは公表しませんよ。次に、リリアムへの人の移動はX国ではなく連合国側の審査を導入することにします。当面はほぼ百パーセント移動を容認します。停戦の期間はまず3カ月、以降延長協議を行います。」
微妙な提案だった。表向きはベータの活動を容認するようであるが、X国が干渉する余地を多く残している。しかし少なくともベータへの攻撃がこれで停止するのならば悪い条件ではない。キリーはさらに続ける。
「停戦を保つためには一つ条件があります。ベータの攻撃隊はX国、連合国軍に対して一切の攻撃をしないこと。もしベータから何らかの攻撃があった場合は協定廃棄とみなします。攻撃の大小は問いません」
サーシャは最後の提示条件に対して訝った。ある意味当たり前の条件をあえて挙げて来るのはどういうことか? キリーの真意が測りかねた。
「何ですか? その条件は。私達サイドからそんな事する訳無いでしょう」
「保険です。あなた達の攻撃力は我々よりもかなり高い。もしあなた達の誰かが恨みを募らせて思わぬ行動に出たら、我々に犠牲者が出てしまうことは必至だ。それに釘を刺すためです」
「それなら、そちらの方が条件に抵触した行動を起こす可能性が高いんじゃないですか?」
「もちろん、我々側の誰かがベータを攻撃したら同様に取り扱って構いませんし、我々は攻撃した者を厳正に処罰します。ご安心ください」
「まあ、それなら……」
話を聞いていたジーンがサーシャに言った。
「持ち帰って少し検討しましょう。即断すべきじゃないと思う」
「そうですね、ジーン」
サーシャはそうジーンに答えるとキリーに回答した。
「その案はこちらで検討させてください。夕方回答します」
ベータ側は一旦会議室から出た。廊下でアルファがジーンを呼び止める。
「ジーン、ちょっと話が」
ジーンはすぐに察した。
「サーシャ、アイリス。先に別室に行ってて」
二人きりになるとアルファが、言いにくそうに話し出した。
「先ほどのキリーからの提案なんだが……」
アルファが極秘事項を直接先方に話す事はできない。しかし、双方の犠牲者を最小限にするためにはジーンにキリーの策略を何とかして伝えたい。しかし詳細を話す事がなかなかできずにいるアルファを見つめていたジーンはそれを察して助け船を出した。
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