第46話 ジーン、アルファを撃つ!
アルファはジーンに迫った。
「で、どうする? これまでの提示条件で飲むか?」
ジーンはしばらく考えた。
「却下」
「なぜだ? いい案だろう?」
「アマンの最終目標って知ってる?」
「最終目標? そんなものあるのか?」
「悪いけど、今日までにあらゆる手でアマンの分析をさせてもらったわ」
「何だって?」
「髪の毛から足の先まで、思考回路もきっちりとね」
これこそがジーンがリリアムで停戦交渉をすることに合意した一番の理由だった。リリアム内ならば、様々な分析ができる。
「そりゃまたおみそれしました…… で?」
「彼は経済的に迫害された過去を背景に持ち、知能の高いベータを根絶やしにすることを目標にしている」
「そこまででは無いだろう?」
「いいえ、彼は完全に歪んでしまっている。脅迫観念が彼を支配しているの。さらにそれを表に出さない狡猾さも持ち合わせている」
「だとすると俺の案は?」
「合意したとしても、実行段階で骨抜きになるわね。彼がリリアムを事実上占拠したら、次は知能の高いベータから言われなき逮捕を繰り返して、鳥の羽をむしるように、どんどん弱体化させるわ。十年もしたらまともなベータはいなくなるわよ」
「そこまでやるのか」
「そういうやつよ」
「……交渉は決裂か?」
「おそらくね。でもいいわ。彼らの考えがわかったから。あなたの考えもね」
「まさか俺の事も分析したのか?」
「さあ、どうでしょう?」
「したんだろう」
「まあね」
そう言うとジーンは突然、護身用の銃を取り出し、アルファに向けた。アルファが冷静に言った。
「やめろ」
ジーンはにっこりと笑って、引き金を引いた。強力なレーザーがアルファに向かって照射された。その瞬間、アルファの胸の前に半透明のシールドが現れレーザーを弾いた。反射したレーザーは壁を壊した。
「なるほど。そういうシールドなのね」
ジーンはアルファを調べて知っていた。彼はアルファ種のくせに独特な超能力を有している。それがシールドであった。彼が戦いの前線でも不死身なのはその為だ。
「試すなよ。それからこれは秘密だぞ」
「はいはい。私からもお願い。これは技術の交渉の一つよ」
「何だ?」
「今晩、夕食が終ったら私のラボに来て。あなたと特別に技術的な話がしたい」
「今したらどうだ? まだ時間はあるぞ」
「ラボでないとできないわ、それからこれは秘密だぞ」
「俺の口真似をするな!」
アルファは段々腹が立ってきた。今までこれほど知能が高くてすべてを見抜かれた女性はいない。いや男でもいない。自分がまるで子ども扱いされているようだ。
ジーンのことはもう少し知らなければならない。技術だけではない。戦争にせよ、何にせよ、こいつは全てのカギだ。アルファの直感がそう感じた。
アルファは、ジーンに分析されただけでは無かった。知らない内に、その心まで引きずり込まれているのに彼は気が付いていなかった。
個人交渉が終り、双方が各々メンバーと会って結果を報告した。ベータサイドではサーシャがアイリスとジーンの報告を聞いて憤慨した。
「交渉の成果無し? 二人とも何をしていたんですか? 聞きましたよ窓や壁を壊したって。どんな交渉をしたんですか? アイリスはともかくジーンまで……」
「「ごめんなさい」」
二人は平謝りだった。
「私も具体的な成果があった訳ではないけれど、あれを見なさい」
アマンがやつれた青い顔で項垂れていた。無理もない。自分の死亡宣告を受けたのだから。
「さすが、サーシャね。どんな手をつかったの?」
ジーンが感心する。
「秘密です」
「今日、これ以上の交渉は無理そうね」
アマンにも打診したが、今日はこれ以上、話をする気はなさそうだ。今日の交渉は打ち切りとなった。
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