第43話 サーシャにアドバンテージ

「アマンさん、私はキルギスタンに住んでいたことがあります。あそこの住民は決して裕福では無いですが、優雅な自然の風景と同じように心が澄んだ方達ばかりでした」


 するとアマンは今まで他人にはあまり話していないことを呟き始めた。


「私の実家は貧乏だった。親や兄弟は生活に苦しんでいた。たまたま学業成績が良かった私は必死になって勉強してX国で政治を志すことにしたんだ。しかしX国では私より頭が良く簡単に成功する者達を目の当たりにした。ついにはその究極の人間達としてベータが現れた。私は羨ましかった。たいした努力をしなくても自分よりはるか高いレベルに到達してしまう…… 他にも色々あったが、私はベータみたいな新種は認めたくないんだ。我々を貶める」


「敗北感ね」

「何だと!」

「敗北感と嫉妬から、ベータを敵視するようになったのね」

「言うな! 貴様のようなやつがいるからベータは嫌われるんだぞ!」


 サーシャはアマンの方を向いて突然目を瞑り何か念じるような姿勢を取った。アマンはたじろぐ。まさか念力を出すつもりではないか?


「おまえ、何かする気か?」

「いいえ、少し静かにしていてください」


(アマンが興奮している姿がおぼろげに見える。やがて誰かと言い争いになる。その誰かが銃でアマンを撃つ。アマンは膝からくずれて倒れる。そして彼の目が閉じる。彼の最期の脳裏には故郷の美しい自然が見える。そして消える……)


 少ししてからサーシャが目を開いた。サーシャは自分の秘密をアマンに伝えることにした。ジーン達にも教えたことが無い特殊な能力だ。


「アマンさん、あまり人には言っておりませんが、私には一種の予知能力があります。予知できるのは人の将来、特に死に際です。でも私は予知をしても通常、本人には伝えません。伝えたところでどうにもならないし、その人にとってはそれを知ることはたいてい悪影響しか与えないからです」


「おまえ、私の将来を予知したのか?」


「はい、あなたには伝えます。あなたの人生はあまり長くありません。この戦争の最後に亡くなるでしょう」


「嘘だ! でたらめだ!」


「信じる、信じないはあなたの自由です」 


「うう。信じはしないが…… どうやって亡くなるんだ?」


「それは言えません。言えばあなたはそれを回避しようとする。すると周りが混乱する。いくら運命に抗ったって、結果は変らないのに、大騒動が起きるだけです」


「いいから教えろ!」


「いえ、アマンさん。私の言ったことは忘れてください。あなたが言うとおり私の予知なんて嘘ででたらめですから、ふふ」


「教えろ! サーシャ!」


 サーシャの目的は達した。サーシャが言ったことは本当だし、アマンもその可能性が高いと感じている。首相になっただけのことはあってその辺の勘は鋭い。


 だからアマンは明らかに動揺している。それこそがサーシャが求めていた姿だった。もしかしたらアマンは戦争を回避することを考え始めてくれるかもしれない。


 サーシャはそれが実現しそうにはないことはわかっているが、できることはする。それがサーシャという人間である。

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