第42話 個別協議Ⅰ アマンとサーシャ
二日目までの膠着状況を鑑みると、交渉の進展は期待できないと思われていたが、想定外に三日目の協議は進んだ。
アマンを説得したアルファが協議の前面に立ち、リリアムの管理についてベータによる一部の自治を認める譲歩をしたのだった。事前に用意された妥協点ぎりぎりであったが、アルファは元々最低限この譲歩は必要と考えていた。
アルファはアマンとキリーが端から停戦交渉を妥結するつもりが無いことを知らない。アルファによって協議に進展があったことで、個別協議にすんなり移行することができた。
―― 個別協議Ⅰ アマンとサーシャ ――
アマン首相は、停戦後のベータ、リリアムの統治についてサーシャに再度提案した。
「サーシャさん。率直に申し上げるが、ベータの皆さんは世界中の従来種から敵視されている。まともに共存することはできない。我々の統治下に入れば、生命は保障する。しかし、あくまで完全な自治や独立を求めるなら、永遠に攻撃されるだろう」
サーシャにとっては、生まれてから嫌になるほど聞かされたベータへのヘイトスピーチの一つである。正直聞き慣れている。
「アマン首相。私達はあくまで独立と完全な自治権を求めます。政治に関しては、この個別協議で得るものは何もないでしょう。平行線なのはお互い分かっていますよね? まあ時間はたっぷりあるし、雑談でもしましょう」
アマンはサーシャがあっさり協議をあきらめたことに驚いたが、特に問題は無い。それに対してサーシャはこれが本題とでも言うかのように違う話をし始めた。
「アマン首相。私達が敵視しているのは従来アルファ種のごく一部です。あなたのような声の大きな人達だけです。他の多くの人は戸惑って、日和見しているだけなんですよ」
「そうかな? ベータの味方をしている人はあまり見かけないがな」
サーシャはジーン程では無いが、知能も洞察力も指導力も全てにおいて優れた人物であり、ベータの代表に相応しい逸材である。サーシャはアマンを改めて良く観察した。
「アマンさん、あなたはX国出身ではなくて、キルギスタンあたりの出ですね?」
「何? なぜそんな事がわかるんだ?」
アマンは驚いた。キルギスタンはX国に大きな影響を受けている小さな周辺国であった。アマンは自分の出自については秘密にしており、知っている者は少ない。
「あなたの顔を特徴を見ればわかるわよ。キルギスタンは自然が豊かで美しい国よね。そんな国の出身のあなたが、X国の首相まで上り詰めたのは素晴らしいことですが、なぜベータを憎むのかそれが理解できない」
アマンは自分の過去を明かされように感じ、慌てた。このサーシャという女、只者ではない。
「出身地なんて関係ない。私はX国の代表として行動しているだけだ」
一瞬の沈黙の後、サーシャはその透き通るように澄んだ視線を、アマンに鋭く向けた。
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