第37話 美しい世界
アルファはジーンの言葉を噛みしめた。間違い無い。自分がやっていることは、きれいな言葉でいくら言い繕ったとしても、結局ベータの弾圧の一つなのである。
犠牲者をゼロにできないことが仕方が無いことだというのは、加害者側の論理である。たとえそれが事実であったとしても犠牲者側が許せるものでは到底無いのだ。アルファは視線を下げ肩を落として呟いた。
「あなたの言っていることは正しい。でも他に方法が無いんだ。俺が指揮しなければもっと犠牲者は増える。X国のやり方なんて最悪だ。他に何か良い方法があればいいんだが、俺には分からない……」
ジーンもそのことは分かっている。彼女の知能をもってしても、アルファのような善人がこの戦況を変える術は思いつかない。それほど二つの種の争いは人類に深刻な亀裂をもたらしている。
「アルファ、言い過ぎたわ。あなたに今以上出来ることは多分無いでしょう。確かにあなたがいなければ双方の死者は相当増えると思う」
「なんで世界はこんなになってしまったんだ……」
アルファの言葉にジーンもやるせない気持ちがこみ上げてきた。
(なぜ人類は人より優位に立とうとするのか? 競争し、相手を負かし、滅ぼしてまで這い上がり生き延びようとする。生物の本能なんだろうか? そうだとしたらそれは醜い本能だ)
「アルファ、あなたはどのような世界を望む?」
「俺は……」
アルファは少し視線を上げてジーンの後ろにある窓から美しいリリアムの光景を見つめた。
「美しい世界……、憎しみが無い世界だ。それだけでいいんだ」
ジーンはずっと突っ走ってきた。色々な人間を見てきた。しかしアルファの様なことを考える男は初めてだった。
そう言えば、アルファの指揮する連合軍に確保され、リリアムに送られたベータの子達が言っていた。『アルファ隊の自分達の取り扱いは丁寧で親切だった』と。
「目を瞑って」
突然ジーンが言った。アルファは驚いてジーンを見上げる。
「静かに目を瞑って」
ジーンが繰り返す。アルファは何のことかわからなかったが、言われた通り、目を瞑ることにした。ジーンが自分のおでこをアルファの頭に付けた。すると次の瞬間にアルファの頭の中に何かの映像がフラッシュした。
「これは!」
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