第36話 ジーンとアルファ

 午前中の見学が終り、一行は昼食を取った。午後からはいよいよ停戦交渉が始まる。昼食後の休憩時間にアルファとジーンがスカイについての話をしていた。スカイは男ながらベータの特徴を持つためジーンがレナと一緒にメレオン島に行く候補としている。ジーンがアルファに訊く。


「あなたの双子の弟は元気?」

「スカイですか? ええ、元気ですよ」


「最近はどうしてるの?」

「ベータの収容施設で確保されているベータの女の子達の相手をしています」


「あら、いい仕事してるのね」

「そうでもない。確保されている子達は何らかの問題を抱えている子が多い。スカイがリリアム行きを薦めているけれど、簡単じゃないようです」


「そう。ベータの子達は差別を受けながら育っているからね」

「あなたもそうだったんですか?」


 アルファがジーンに尋ねた。ジーンは思わぬアルファの振りに、少し黙った。自分の過去のことなど、しばらく思い出したこともなかったからだ。


「…… そうね。もちろん厳しい差別は受けたわ。私が子供の頃はまだベータが珍しかったしね」


「スカイは、孤独に近い。おそらく最初のベータの子と同じような気持ちだろうと思います。兄弟の私以外は理解してくれる者が周りにいませんでした」


「アルファ、あなたは今連合軍の司令官としてベータと闘う指揮をしている。一方でやはりベータの弟であるスカイの事を守り続けてきた。あなたはベータの敵なの? 味方なの?」


 ジーンに問われるまでもなく、アルファは立場的にはベータの敵になる。しかしベータであろうが何であろうが、明らかに彼は弟の味方だ。


「俺は、人種は関係ない。守るべき人は守る」


 そのアルファの言葉にジーンの眉毛が少し吊り上がった。少し厳しい口調になる。


「じゃあ、どうしてベータを攻撃するの? いえ、答えは容易に想像できるわ。ベータとの闘いは仕事だから、命令だから仕方なくやってるって言いたいのね?」


「いや、そんな単純な話ではない。俺が前線の司令を希望したのは、X国に攻撃される前にベータを安全に確保したいからだ」


 ジーンは立ちあがり、あたりを歩き出した。アルファの言葉を素直に受け取ることはできない。椅子に座ったままのアルファに近づき上からにらみつける。


「さも、自分がベータの味方みたいな言い方をしている。確かにX国の戦闘に比べるとあなたの作戦は犠牲者は少ない。でもね、少なくてもベータの犠牲者が一定数出ているのよ。攻撃がなければ一人も死ななかったのにね! 偽善者!」

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