第35話 ジーンの研究室

 ジーンの研究室は広く、あらゆる実験機材が所せましと並んでいた。キリーがカプセル状のベッドを見つけた。説明係のサーシャに訊く。ジーンはいない。


「これは?」

「コールドスリープ用のカプセルです」

「コールドスリープ? 冷凍睡眠装置か? そんなものまで作ったのか?」

「ええ、ご希望であれば、ご利用していただいていいですよ」


 ゴホッ、

 キリーは喉が詰まって咳払いした。

「いや、遠慮しておくよ」


 実はキリーが咳払いをしたのはサーシャの冗談だけが原因なのでは無かった。ジーンが研究室にある仕掛けをしていたからである。キリー達訪問者はそのことには全く気が付かない。


 モニターで彼らの様子を見ていたジーンとアイリスが話す。

「パウダー吸ったね」

「吸いましたね。おそらくアマンとアルファも吸い込んでいるでしょう。これで彼らの発言、行動が全て筒抜けですね」


「そう。キリーが盗聴チップを撒いているのもわかっているけれど、こちらの方が上手よ」

「どれくらい保持しますか?」


「半永久よ。ウイルスの技術を応用している。鼻腔に固定されて、以降一定の増殖を行う」

「それはすごい。まさか私達にも吸わせていませんよね?」


 アイリスの不安にジーンは笑った。


「そんなこと、やる訳ないでしょ。監視が必要な悪者だけよ」

「あの、キリーのことは後で説明させてください」



 ◇ ◇ ◇


 その日の夜、ジーンはアイリスからキリーの事について知っていることを全て話した。

「ふーん、キリーはちょっとアマンとかとは違うとは感じていたけれど、オシミア人かあ。今後は彼がキーかもね」

「はい。私もオシミアの血が混ざっていて……」

「え? あ、そうなの? んー、もしかしてあなたキリーの事が気になっている?」

「…… 少し ……」


 アイリスが小さい声で答えた。史上最強のベータ2がこんな表情をするなんて。

 ジーンは髪をかきあげた。


「ややこしいことになったわねえ」

「すみません」

「キリーがいいやつであることを祈るしかないわね。なかなかそうは見えないけどね」

「は……い」



 ◇ ◇ ◇


 ―― 見学時点に戻る


 研究室の中をなおも見学していると、キリーはバイオハザードのマークがある部屋を見つけた。


「ここは?」

「ウイルスなどを研究する部屋です。ハイレベルなので入れませんよ」

「そうか。わかった」


 その時、サーシャの携帯に電話がかかった。

「少し外します。すみません」

 サーシャは電話を取りながら入口の方に駆けていった。


 キリーは監視カメラの位置を確認し、その死角になるようにしてウイルス研究室のドアをわずかに開けて監視チップを撒いた。そしてマイトと呼ぶさらに特殊なスパイデバイスをそっと入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る