第26話 復讐の序曲(キリーとX国)
マヤ空港事件の翌年、X国はベータを本格的に弾圧するようになった。X国以外の諸国は表向きX国の弾圧に反対していたが、ベータによる一般男性の
どの国でも国民の反ベータ意識に配慮して、X国の行動を容認し協力するようになったのである。
ベータ側はX国の執拗な弾圧に対して、次第に強い対抗処置を取り始めた。やがてその攻防は局地的な戦争と呼んで差し支えないような争いに発展した。
X国首相のアマンは言い切った。
「ベータは現代の魔女、人類の脅威だ。我々は全滅させるまでベータと戦う。これは明らかに戦争だ」
ベータが出現し始めてから、人間という種は大きな変革期に入った様だ。ベータに限らず、あちらこちらで知能が高度に発達する子供達が堰を切ったように現れ、体形が異常に発達する子供さえ見られるようになった。
後に彼らはみな、遺伝子に変異を起こしていることが確認された。それはまるで神に変態[生物学上の形態の大きな変化]を促されているようだった。
すると各国はベータを除く若くて有能な変異種たちを、重要な仕事に抜擢するようになった。なぜなら、そうした方が国際競争で有利に立てるからだ。変異種達の有効性は誰の目にも明らかだった。
特にブライトンで教育を受けた双子の兄アルファやエリス、留学生のキリーなどは弱冠二十歳前後で、すぐに各国の重要な役割を担う様になった。
しかし…… ベータだけは迫害され続けた。
―― マヤ空港事件から2年後 X国
キリーは思惑通りX国政権に入り込んだ。誰も彼がオシミア出身だとは知らない。X国が侵攻したオシミアから紛れ込んだ若き天才は復讐の第一関門を突破したのだ。
はっきり言って今の政権中枢に彼より賢い者はいない。コネだったり、金だったりで政治家になった者達だ。ギフテッドとして天性の頭脳を与えられ、実力で伸し上がってきたキリーとは違う。
流石に首相のアマンは手強いが、逆にキリーは作戦として彼の懐刀としてしばらくは忠誠を尽くすことにしている。
やっかいなのは軍の連中だ。頭は悪くても強力な武器を持っている。今のキリーでは彼らをコントロールする術がない。
キリーは諦めず、X国とベータとの戦いによる混乱に乗じて何かの手を打つことを考えていた。しかし時間が足りない。先にカタストロフィが来るかもしれない。それ程、弾圧の事態は緊迫の度を高めていた。
X国と関連諸国は次第に共同戦線を張るようになった。諸外国の軍隊の集まりは連合軍と呼ばれた。その連合軍の司令部門で頭角を現してきたのは、やはり双子の兄アルファだった。
やがてキリーとアルファが、互いの組織のトップメンバーとして会う機会がやってきた。キリーは執務室に入ってきた連合軍の代表者を見て言った。
「ようアルファ、久しぶり。今や連合軍の司令官の一人か」
「ようやく会えたな、キリー。お前もX国のナンバー2とはたいしたものだ」
「本題に入ろうアルファ。最近、連合軍の前線は劣勢だな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます