第20話 ベータ2が全てを吹き飛ばす(アイリスとレナ)
ベータの二人の少女が前に歩み出た。
アイリス(14歳)とレナ(9歳)だった。ベータは知能の発達が
「レナ、私とタイミングを合わせるのよ。そしておとなしい一般人は避ける事」
「言わなくても、私に、伝わって、理解している。大丈夫だよ」
レナは9歳にも関わらず状況を冷静に見極めており、しかもアイリスの指示をテレパシーで予め読み取っている。二人は混乱が最も激しいところに並んで正対した。二人とも目に光を帯び始めている。両手を伸ばした。そしてアイリスが掛け声をかけた。
「まずシールド!」
二人の手から先行してプラズマのような光が複数の方向に放たれた。それはいわゆる暴徒以外の人々のシールドとなり彼らを包んだ。
「レナ、次衝撃波いくよ、はい!」
次に巨大な衝撃波が二人の手から放たれた。シールドされていないところが文字通り吹っ飛んだ。
―― 一時の静寂
死人はいなさそうだが、衝撃波を食らった人々は一人残らず気絶し倒れていた。車も、建物も、地面さえ、無機物は木っ端みじんになっている。
一瞬の静寂が過ぎて、風が吹き抜けた。シールドされていた人たちは、腰が抜けたようになっていたが、一人一人正気に戻ると、叫び声をあげて逃げて行った。
ベータの子達でさえ、桁違いの破壊力を持つ二人の
これが後にベータ2と呼ばれるベータの中でも異常に変異した種だ。
ベータ2のアイリスとレナは後年、この戦乱の中で重要な働きをすることになる。
「すげ……」
キリーも思わず呟いた。
エリス(彼女もf1という特異種)だけが平然としていた。彼女が沈黙を破った。
「アルファ、スカイ、キリー。ちょっと彼女達のところに行きましょう。今、話をしておくべきだわ」
「俺はやだね、怖え」キリーが言った。
「僕は行く。アルファも行こう」とスカイ。
「あ、ああ」
アルファはまだ茫然としているが、一緒に行くようだ。結局エリスは嫌がるキリーも無理やり引っ張って4人で行った。一方ベータ側ではサーシャがいち早くアイリスとレナの所に駆け寄っていた。
「あなた達名前は?」サーシャが訊く。
「アイリスです。こちらがレナ」
「ああ、噂の特殊な変異の子達ね。それにしても今の衝撃波、相当ね」
「普段は使わないように言われていたんですが、使ってしまいました」
「いえいえ、適切な使い方だわ。パワーも丁度良、く……コントロールされてた、し、ね」
サーシャは破壊された建物をちらりと見て、自分の言葉が適切かどうか自信がなくなったが、言い切った。(相当ひどいが、まあ許容範囲だろう)
アルファ、スカイ、エリスの3人が来て、サーシャに話しかけた。
「サーシャさん、すみません。僕らブライトン特別専門学校の生徒です」
サーシャは彼らを見て、パッと顔を明るくした。
「ブライトン……優秀な子達ね。さっきベータを少し助けてくれていたようね。ありがとう」
「いえ、僕ら、ベータ反対派の理不尽な振る舞いには我慢できなかっただけです。自己紹介させてください。僕はアルファと言います」
「アルファ……」
アルファという名前にサーシャは少し敏感に反応した。まさに世界中でベータとの対義語としてアルファという呼び名が現行人類種を示す名称として浸透し始めていた。
「こいつが、スカイです。僕の双子の弟になります」
アルファが紹介した。サーシャはスカイの本当の髪の色をすぐに見抜いた。
「君は噂に聞いているベータの男子ね」
しかし当のスカイはサーシャの肩越しにレナを見ていた。まだ幼児のレナがテレパシーを使っていることを感じ取ったからだ。スカイにもその能力がある。レナは無表情でスカイを見返す。
(うっ、この人読みにくい)
レナはテレパシーでスカイの心を読もうとするが、なかなか読めない。
するとスカイがサーシャと会話をしながら、レナに対して心の一部を開放した。
(おちびちゃん、僕の心を読もうとしても無駄だ。僕もその能力は持っているしブロックもできる)
レナはスカイを睨んだ。読めた! いえ、この人わざと解放したんだ。
二人はお互いが特殊中の特別な人間だという事を認識した。
反応しないスカイを無視してアルファがエリスを紹介した。
「こちら…… この子がエリスです。体が大きいですが、まだ9歳です」
「9歳……」
サーシャは自分の背の高さと変わらないエリスを見て、たまげた。
「こちらも紹介するわね。ベータのアイリスとレナ。私サーシャは、リリアムにいるジーンから権限を委譲されたベータ側の代表責任者になります……」
サーシャがベータ側を紹介し終えたちょうどその時、警察・及びベータ側スタッフがサーシャのところに飛んできた。
「サーシャ、事件の後処理が必要です、移送スケジュールの調整も。至急来ていただけますか?」
「警察ですが、加えて事情聴取をさせてください。そちら学生さん達かな? 派手に動いていたようだけど、誰か代表して一人来てもらえるかな?」
「僕が行くよ。スカイ、キリー、後はまかせる。先に帰ってもいい」
アルファが言った。
サーシャとアルファがスタッフと警察に空港のどこかに連れられていった。
移送スケジュールは再検討される。ベータの移送の子達は空港内待機となった。
残ったキリー、アイリス、スカイ、レナは今回の出会いが各々の運命の出会いであることを知る由もなかった。そしてエリスはその重要な歴史の目撃者なのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます