第19話 マヤ空港事件(2054)
2049年にロスで起きた軍事衝突では、ベータ側が初めて武装し、追い詰められたわずか15人のベータが300名の兵士を道ずれに全員犠牲になった。恐るべきベータの力であった。ロスの事件から5年。同じような悲劇は絶対に防がなければならない。
―― マヤ国際空港 2054.3.17
しばらくしてスカイが叫んだ。スカイは極めて珍しい男性のベータで、兄アルファの双子の弟でもある。リリアムに移送するベータの少女達を乗せたバスが来た。
「バスが来たぞ、警戒!」
「スカイ、何かあっても
「それは念力を使ってもOKだと言っているな? アルファ」
「そう言う事だ」
「やれやれ」二人のやり取りにキリーはお手上げポーズをとった。
(なんだかんだ言って結局手を出すのかよ)
「で、アルファは何か武器はあるのか?」スカイが気にする。
「俺はこれ。スタンガンだ」
「ただの防犯用か?」
「ああ、元はな」
「元は? 改造していると……」
「ノーコメント。キリーは?」
「俺は何も持ってないよ。体が資本だ。言っておくがまだ学生だぜ、俺達」
確かに彼らはまだ19歳であるが、一般的な19歳とはまるで異なる秀才達である。ベータに対抗して国は優秀な人材を集中的に教育していた。それがアルファらが所属するブライトン特別専門学校である。
ベータの19歳は通常の高級官僚レベルの知能を持つが、それに匹敵する秀才を17歳から集めて育てるのがこの特別学校である。ここを卒業すると主要な公的機関(軍を含む)の幹部として抜擢される。
大型バスが停まった。緊張が走る。悪意に満ちた群衆のボルテージが上がる。彼らから見ると、まさに悪魔の力を持つ集団が到着するのだ。それは錯覚も甚だしい。集まった群衆は云われなき偏執的な憎悪で頭がおかしくなっているのだ。
唸るような声がバスに降りかかる。バスの自動ドア2か所が開いた。警備、エスコート人員に続いて白髪の少女達が出てくる。五歳から十五歳くらいのベータ達だ。みな目つきが鋭い。警戒する野生の猫のようだ。出迎えたサーシャが彼女達を建物の入り口に案内する。
空港の入口までは二十メートルほど、最初の少女が空港に入りかけた時だった。群衆の一人が台の上に立ちボーガンで矢(!)を放った。少女たちの頭をかすめて空港のガラスを割った。
ガシャン!
これが合図となってしまった。群衆の一部がなだれ込んできた。一部と言っても百人以上が少女達目がけて走りだしたのだ。サーシャが叫ぶ。
「みんな早く建物に入って、ベータのスタッフは衝撃波で防御を!」
「そら、始まった!」
キリーは言うや否や二階から飛び降りた(!) 非常に乱暴なやり方だが、キリーは一人ずつ暴徒を殴りつけ、気絶させていく。スカイは走りながら、他のベータのスタッフ同様、走って来る先頭の男達を衝撃波で食い止める。
アルファは少女達の方へ走り、彼女達の直前で警備員達と一緒に守りに入った。すぐに空港入口は大混乱になった。バス停留エリアに侵入する人数はさらに増え、三百人ほどがなだれ込んだ。年上の少女達もスカイと同様、衝撃派で抵抗しては、幼い子から建物内に急がせた。
アルファが叫ぶ
「数が多すぎて埒が明かない!」
スカイも叫ぶ
「どんどん増えている。守りきれないぞ、建物に侵入される」
キリーは自分の周辺の暴徒に関してはをほとんど気絶させた。さらにベータに群がる連中の方へ走ろうとした時、エリスが後ろからキリーを羽交い絞めにした。キリーが驚いて振り向く。
「エリス、こら、離せよ」
「キリー、もうそれくらいでいいよ。見て、何かヤバい子が二人いる」
エリスが見る先にはベータの列から前に出てくる二人のベータの女の子。雰囲気が明らかに他の子と違う。エリスはさらに叫んだ。
「スカイ、アルファ、戻って!」
各々離れたところで暴徒と対処していたスカイとアルファはエリスの声に気が付き、やはりベータの異質な二人を見つけると、すぐにそのオーラを感じた。アルファとスカイが順に呟いた。
「なんか特殊な子がいるな」
「感じるか? 逃げた方が良さそうだ」
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