第12話 Break time(未来にて)

 …… 2030年に一人のベータの少女が産まれた。ジーンと名付けられた。 

 彼女は時代のキーマンとなっていく。

 

―― 話は未来に ――


 ◇ ◇ ◇


 ―― 西暦3060年 マーキュリーとノア


 ノアはベータ1の初期の話を一通りマーキュリーとエリザベス(リズ)に説明し終わった。静かなBGMが流れている。窓から春の香りが漂って来る。

 マーキュリーはお茶を一杯飲んでノアの方を見つめて息を吐いた。


「ふーっ。ベータ変異って結構急だったのね。もっと緩やかに変化していったのかと思ってたわ」


 ノアもコーヒーを飲み始めた。挽きたてのコーヒーのいい匂いがノアの感覚を満たす。声のトーンをナチュラルなものに戻してマーキュリーに話した。


「そう、かなり急激だったようだ。どうもウイルス由来らしい」

「へー、そこまで分かっているの?」

「ああ、地球外からのものらしいよ」


(地球外? そんな事ってあるの?)

 マーキュリーには解せない。ノアが続ける。


「さらにこの時代の人種転換のとどめを刺したのもやはりウイルスなんだ。何とこちらは人工のウイルスなんだぜ」

「うわあ、人工? 誰かが作ったわけ?」

「設計したのは最後に紹介した天才ジーンさ。でもばらまいたのはアルファ側だ」

「え、アルファが? なぜ?」

「簡単に言えば自滅したんだ。複雑な事情がからんでいる」

「複雑な……?」

「この転換期の物語には十人近くの重要人物群がからんでいる。いつか機会があれば細かく説明してあげるが、時間がかかるから今日は本筋だけにするよ」


 そう言うとノアは、奥の方に移動し、色々な資料を取り出してきた。

 ノア自身も実際にはこの変革期の全貌は把握していない。


 ノアは今回なぜかマーキュリーには、普通の資料ではなくて、彼女に合うような情報に整えて伝えた方が良いと思った。なぜそんな感覚になるのかノア自身にもよくわからなかった。

 

 そこでノアはマーキュリーに向かって言った。


「君にはジーンとレナにある程度絞って説明したい。少し整理するので時間をくれないか。続きは明日にしよう。ゲストルームがあるから、ゆっくり一晩休むといい。エリザベスさんにも別にもう一室用意しよう」


(私は呼び捨てで、リズにはさん付けなのね)

 マーキュリーはノアの言い方に少し引っ掛かった。(冷静に冷静に……)


「わかったわ。また明日ね、リズ、寝ましょうか?」

「あ、待て。夕食がまだなんだろ、食事の支度もするから、それまでゆっくり休んでてくれ」

「さすがに気が付いてくれたわね。今日は食事抜きになるかと思ったわ」


「博士、話し方、少し控えめになさってください。せっかくおもてなししていただいているんですから」

 リズがマーキュリーをたしなめる。


「わかってるわよ、リズ。ノアありがとう。見た目よりは優しいのね」

「いえいえ、どういたしまして。博士様」

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