第7話 ノア
マーキュリーに友好的に話ができると問われたノアは答えた。
「君達次第だな。この島に来た目的は?」
「質問はこちらが先よ、レディーファーストでしょ」
「君がレディーならな」
「失敬な、まあいいわ。問一、あなたはベータじゃないわね? ベータって知ってる?」
「僕らは君達大陸の人間の事は何でも知ってるさ。君等はバカだからこの島のことは何も知らないだろうがな」
「バカとは何よ、バカとは!」
「ああ、失礼。久々にからかいがいがある人種が来たもんでうれしいよ。もちろんベータは知っているよ。君のような人種のことだね。そして僕はベータではない」
「答えてくれてありがとう!」(
「では、今度はこちらから質問だ。この島に来た目的を教えてくれるかな?」
ノアは腰に手を当てたまま、頭を少し下げた。文字通り上から目線だ。
「いいわ。私は人類学者よ。最近この島に旧人類がいるって噂を聞いて確かめに来たのよ」
「ほう、旧人類ね。どちらかというと君達の方がその言葉に似あっている気がするがね」
「どこが!」
「そのすぐ怒るところが」
「博士、少し落ち着きましょう」
リズがノアの挑発で熱くなりかけているマーキュリーをなだめた。
「ふーっ」
マーキュリーは一息吐いた。
「短刀直入に訊くわ、ノアさん。あなた達この島の人々はアルファの子孫なの?」
ノアはその質問にはすぐに答えず、少し考えてからマーキュリー達のところに近づいてきた。
「もう千年も経った。せっかく来てくれたんだ。そろそろ開示してやってもいいかな。どうせ暇だからゆっくり説明してあげるよ」
ノアはそう言うと、今度は黙ってやりとりを見ていた子供達に言った。
「ソラ、ウミ、いい出会いだったね。自分の家に帰って家族に話すといいよ。原始人に会ったよ、とかね」
「「うん、わかった。ノア、じゃあね」」
ソラ、ウミという個性的な名の二人は走って行った。
ノアは振り返ると言った。
「マーキュリー博士、エリザベスさん、こちらに付いてきなさい」
近くで見るとやはり彼は背が高い。リズよりもさらに見上げる高さだ。
マーキュリーは複雑な表情で付いて行った。(見た目は好みだぞ、でも性格が……)
ノアは歩きながらマーキュリーとリズにこの島の説明を始めた。
「この島には今、およそ百人程の人間がいる。昔からあまり変わらない」
百人という数はマーキュリーにとっては少なすぎるように思えた。
(そんな少数で特殊な人種が長年生き延びられるものだろうか)
「見てお分かりのように、ここはカルデラの中でその外から隔絶するように作られている」
「すごく美しいけど、結構人工的な工夫がされているわね」
「ああ、その通りだ。我々は先人の教えを忠実に守っている。必要な分だけ自然を改良し極力美しく安定的に保つんだ。」
「あなた達は私達ベータとは違うと認めたけど、どういう人種か説明して」
「……」
ノアはしばし遠くの美しい森と空を見てから、マーキュリーの方に向き直って話し出した。
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