第8話 二つの墓碑
ノアは続ける。
「我々の先祖はアルファの変異体、男性版ベータ1と言ってもいい。それからもう一人、ベータ2だ、我々はその二人の遺伝子を受け継いでいる」
(アルファ=ホモ・サピエンスと関係があるとは想定はしていたが、その変異体だとは! そしてベータ2?? ベータ2ですって? 何それ?)
「詳しく教えてくれる?」
「これから行くところで詳しい歴史を説明するから、それまで待ってくれ」
そして開放的な通路に面した緑一面の芝生の庭に、二つの記念碑のようなものが見えてきた。緑色とオレンジ色のオブジェの様だ。並んで立っている。何か文字が書かれている様だが読み取れない。
「あれが、千年前にここに初めて入植した二人の墓碑だ。我々の大切な祖先だ。今は静かに眠っている」
マーキュリーはその墓碑から何か得体のしれないオーラの様なエネルギーが出ているように感じた。それはリズも同じように感じた。
「感じるだろう、彼らの想いを。彼らはここに夢の世界を作ったんだ。オレンジ色の方がレナだ。ベータ2だ」
「ベータ2って?」
「君等、現在のこの世の大半の人類はベータ1と呼ばれた種だ。昔はベータの変異体であるベータ2と言う人種がわずかに存在したんだ」
「普通のベータとどう違うの?」
「ベータ2は言わば女神だ。ベータ1の特殊能力が極限まで進化した種だ。特にレナは桁外れの特殊能力を持っていた。我々も一部受け継いでいるが、その力は封印している」
「聞いたことがないわ」
「君達ベータ1の先祖は、千年前の悪夢の歴史を隠したんだ。子孫が知ったら苦しむことになるからな。俺でも同じことをするだろう」
「え、悪夢……」
「ああ、仕方のない歴史だが、恐ろしい史実だ。この後に君達は知ることになるが覚悟はしておけよ」
リズが指を指した。
「ノアさん、緑の墓碑の方は?」
「緑の墓碑はスカイという男性のものだ。彼が先程言ったアルファの変異体だ」
「ホモ・サピエンスの変異体……」
「そうだ。ベータの特徴を持っている。ちょうどアルファとベータ1のあいの子の様な存在だ」
「具体的な特徴は?」
「アルファの体格や運動能力を維持しながらベータ1の特質を持っている。薄い色素、超能力、高度の知能…… 彼も非常に稀な変異体だった」
「男性なのにベータの性質を持ち合わせている。そんな男性がいたなんて……」
「千年前の人類に急激な種の変異が起きたんだ。その過渡期には亜種の人間が多数生まれたのさ」
芝生の庭の二つの墓碑は寄り添うように静かに陽光を反射している。
さわやかな風が吹きぬけた。
◇ ◇ ◇
三人は本棚や植物、立体映像表示装置のあるレクチャールームの様な部屋にやってきた。
ノアはマーキュリーとリズを椅子に座らせて、言った。
「これから、この星の本当の歴史を見せてやる。なぜベータ1とF1の世界になったのか、そしてなぜこの島に我々のような変異体が生き残っているか……」
マーキュリーは固唾を飲んだ。
(過去に何があったのか? アルファ(ホモ・サピエンス)からベータ種に変わったのはナチュラルで緩やかな進化だと教わり、そう信じてきた。誰も知らされたことが無い事実があったとすれば、私はそれを冷静に認められるだろうか……)
ノアは立体映像装置を起動し、映像が始まった。そして彼の説明が始まった。
「今から千年前の話から始まる。最初は君達ベータの祖先がつらい思いを……」
ノアは声に詰まり、全てを語れなかった。そう言うストーリーのようだ。
【未来編】終わり
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