第2話 出発前、家族と
柔らかく大きなダブルベッド。母と双子が川の字となり母親のマーキュリーが絵本を読んでいる。静かな夜が流れていく。
「……それで、アルファは最期に一人で人々の前にすっくと立って叫びました」
母親のマーキュリーにとっても、大好きなフィナーレの場面だ。
「新しい人間達よ。どうか、この星の自然を大切に守ってくれ、さようなら……」
「おーわーりっ」
マーキュリーは両脇にいる子供達を見た。もう二人ともとっくに寝息を立てて眠っていた。
しかしマーキュリーは、またしつこく絵本に食い入って見つめた。
「この素晴らしい挿絵ときたら…… アルファって、本当にこんなに格好良かったのかしら?」
静かな夜は更けていった。
家族にとって幸せな一日が終わり、また気持ちのいい朝がやってくる。
翌朝、マーキュリーと娘のアリエルは庭で向かい合っていた。
毎朝恒例の念力、衝撃波の掛け合いをしているのだ。
体操や武術の鍛錬のようなものだ。
父親のマーズと息子のロキはそれをのんびりと窓から仲良く並んで眺めている。
男は念力を使えない。
マーキュリーが大人げなく、娘のアリエルを衝撃波で庭木まで弾き飛ばす。
しかし、まだわずか5才のアリエルは、器用に幹を掴んでくるっと回ると、母親に強烈なお返しをした。衝撃波で弾き返したのだ。
マーキュリーが家の壁に激突する寸前で、夫のマーズが網を出して受け止めた。
マーキュリーが口元を手で拭いてアリエルを睨む。
「くっ、我が娘ながらなんてパワーなんだ。もう私も衰えてきたか……」
それを聞いたマーズが平然と言った。
「マーキュリー博士。君は学者なんだから、そこは競わなくていいだろうに」
息子のロキもうんうんと頷く。
しかし、マーキュリーは負けず嫌いだ。
「そうよね。今日はこれくらいにしてあげる。我が娘よ」
「お母さん、それは私のセリフよ」
アリエルが服の埃を払いながら言った。
「博士、そろそろ出発する時間じゃないかい?」
マーズが言うとマーキュリーは我に返った。
(そうだ! 今日は念願の地へ初出張だ。ついにメレオン島に上陸するんだ! ホモサピエンスに会えたりして!)
「マーズありがとう! もう行かなくっちゃ。愛しい家族よ、留守はよろしくね。お土産買って来るから~」
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