何を話そうか

 そこにはいたのだ。

逆さ吊りでこちらを見つめる、少年の化け物が。

…しかもダブルピースで。



「………あの」


目の前の少年が、「どうした?」と言いたげに首を傾げた。


「ふざけてる?」



______________________________________




「いえ、至って真面目です。」


 …びっくりした、この子喋れるんだ。

目の前の少年は「よいしょ」と言いながら、逆さ吊りの状態を私と同じ向きにした。


 …どうしよう、この状況。

逃げるか、このまま会話するか。


「僕のことわかる?」


あっちから話が来た。


「え?有名な化け物なの?」


「なんだよ化け物って!

 僕は幽霊だ!…それと有名では

ない!」


「ごめん、知らない幽霊かも」



幽霊と名乗る少年は、少し寂しそうな表情を浮かべた。



「…そっか、わかった。

 じゃあ、気を付けて帰って。」


…気の使える幽霊なんだな。


私は指示に従い、家への帰路を辿った。




______________________________________





「ただいまー」



疲れた足を玄関にあげ、手に持っていた荷物を自室に投げ捨てた。



 そして私は、あの部屋へと向かう。

向かう途中で、少し思考を巡らせた。


 そういえばさっきの幽霊、髪に猫のヘアピンみたいなのつけてたな。

なんか見覚えあると思ってたけど、いつも貴方の側にあったんだった、猫のピン。


 部屋についた。


そこには、貴方がいる。私の一番大切な人。


 でも、不思議だね。

私の目に写る貴方の顔は、いつも黒く塗りつぶされている。


 顔が見えずとも、名前を思い出せずとも、私は貴方がひたすら大切で。

ただ、大切だということだけを覚えている。




今日は、何を話そうか。





私は、貴方の写真と猫のピンが置いてある床に、ゆっくりと腰かけた。

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