第4話 スキルコピー

 僕は感動と感激のあまり、涙を流していた。

 女の子の体がこんなにも温かくて、気持ちの良いものだなんて知らなかった。

 クロネは無条件で無代償で僕を全力で愛してくれた。これほどに人に必要とされたのは初めてだ。

 本当に生まれてきて良かったと心から思った。

 初めての相手がクロネで本当に良かった。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん♡♡クロネ、お兄ちゃんのこと大好きだよ♡♡お兄ちゃんと一つになれてとってもとっても幸せ♡♡」

 クロネは僕の腕のなかで恍惚の表情を浮かべる。

 これは僕の自尊心と征服欲をおおいに満足させる言葉だった。

 僕もクロネの愛に答えるべく、すべての愛情を注ぎ込んだ。


 僕は空っぽになった。

 すっからかんだ。

 たっぷりとクロネを愛するとお兄ちゃん、お兄ちゃんとうわ言のように繰り返すだけになった。


「はー気持ちよかった♡♡お兄ちゃん、本当に初めてなの? こんなに気持ちよくされたら、僕、お兄ちゃんから離れられなくなっちゃうよ♡♡」

 頬を桃色に染めたクロネが僕の首筋を甘噛みする。


 愛し合った僕たちは抱きしめ合って、泥のように眠った。


 特技スキル淫魔を獲得しました。

 この特技スキルを使用すると対象者の感度を1倍から3000倍にできます。

 まぶたを閉じる瞬間、そのような文字が視界を流れた。

 なんだこれは?

 まるでエロゲーの主人公みたいな設定ではないか。

 そう思いながら、眠りについた。


 どれほど眠ったか見当がつかないが、次に目覚めたときには朝になっていた。

 小屋の窓から朝日がさしている。

 あれほど激しく愛し合ったのに、体には疲労感はまったくない。

 むしろ快調なぐらいだ。

 ブラック企業で働いていた疲労がすべてとれたようだ。

 この日から正真正銘、僕の異世界生活がはじまる。

 胸が高鳴る思いだ。

 クロネは僕に抱きつき、お兄ちゃんとうわ言を言っている。もともとクロネは猫だからよく眠るのかもしれない。


 クロネのかわいい寝顔みていると、視界にテキストが浮かんでは消えていく。


 クロネ・トリスタンの特技スキル模倣コピーに成功しました。

 特技スキル短刀術 加速 回避率向上 風魔法 念話 収納を獲得しました。

 レベルが5に上がりました。

 称号「転移者」「冒険者」「使い魔猫の主人」を獲得しました。


 特技スキルとか称号とかやっぱりゲームっぽいな。僕はオタクなのでこのような設定には馴染みがある。すんなりと理解して、受け入れていた。



「ふはあーあ」

 まぶたをこすりながら、クロネは目を覚ました。


 おはようと僕に挨拶し、チュッとキスをする。

 まったくクロネはキスが好きだな。

 まあ、クロネのような美少女にキスしまくられたら、うれしいかぎりだ。


 クロネはベッドから飛び降りると、空中に手をかざす。

収納箱アイテムボックスオープン!!」

 空中にぼんやりとした光が浮かぶ。

 そこから中世ヨーロッパ風の衣装を二着とりだす。

 それはクロネと僕の服だ。

 僕はその服に着替える。

 クロネも着替えた。さすがに裸で動き回るわけにはいかないからね。

 クロネは僕に短剣を手渡す。

 僕はその短剣を受け取るとベルトの隙間に差し込む。短剣だけどやっぱり刃物だ。それを持ち歩くのは現代日本人としては緊張する。


「ここは異世界だからね。お兄ちゃんのことは全力で守るけど、念のため持っていてよ」

 クロネも僕と同じように短剣をベルトの隙間に差し込む。


「さて、最初の目的だけどここから南に歩いていくとドンレミ村という集落があるんだ。そこにしようと思うんだけど、いいかな?」

 クロネは僕に提案する。

 もちろん、異論はない。

 これから異世界生活が始まると思うと緊張と興奮が入り混じった複雑なものが体中を駆け巡る。


「とその前に腹ごしらえだね」

 クロネはそう言うと収納箱アイテムボックスからパンとりんご、水筒を取り出す。

 収納箱アイテムボックスか、便利な能力だな。

 僕も覚えたから機会があったら使ってみたい。

 クロネに訊くと収納箱アイテムボックスの容量は荷馬車一台ぐらいだという。

 この収納箱アイテムボックスの力を使い、交易なんかするのもいいかもしれない。

 交易先でえ出会った女の子たちと仲良くなり、いい関係になるのも悪くない。

 なんていったって僕はそういう目的でこの異世界アヴァロンにやってきたんだからね。



 とりあえず最初の目的は近くの集落であるドンレミ村に向かうことだな。

 そこでどんな女の子にであえるか楽しみだな。

 昨日確認したんだけど特技スキル魅了の効果は異性から無条件に好感をもたれるとあった。これがあれば非モテとは開放される。魔女のアフターケアはばっちりだな。



 僕たちは視界のマップをたよりにそのドンレミ村に向かう。

 クロネと手をつないで一時間ほど歩くと最初の目的地であるドンレミ村が見えてきた。

 ファンタジー物の海外ドラマや映画でみるようなこれぞという中世ヨーロッパという景色が広がる。


「おっ見えてきたぞ」

 僕は右隣りをあるくクロネに声をかける。

 クロネは真剣な顔で村の風景を見ている。

 真剣な顔もかわいいな。

 しかし、そんなクロネの美少女っぷりに感心している場合ではなくなった。


「キャーッ!!」

 耳が痛くなるほどの女性の悲鳴が聞こえる。それも複数であった。

「お兄ちゃん、ドンレミ村が魔者に襲われているよ」

 クロネは駆け出した。

 僕はその後を追うように駆け出した。

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