第5話 ゴブリンとの戦い

 僕たちは悲鳴のほうに向かって駆け出す。

 クロネは僕をちらりと見る。

 おにいちゃん、加速の特技スキルを使うよ。

 それは脳内に直接響く声であった。

 クロネは特技念話を使っているのだ。その証拠にクロネの唇はまったく動いていない。

  

 ひゅっと風をきる音がする。

 クロネが加速の特技スキルを使用したのだ。

 僕もそれに続く。

 体がふわりと浮いた感触がする。体が嘘のように軽い。

 僕は文字通り風となった。

 瞬時に悲鳴の主のところにたどり着いた。

 およそ二百メートルを数秒で駆け抜けた計算になる。早く到着できたけど同じ距離を走っただけの体力は消費するようだ。

 息があらくなり、膝が痛む。

 僕は肩で息をしているが、クロネは平然としている。これがレベル差であろうか。

 すでにクロネは短剣を鞘から抜き、臨戦態勢をとっている。

 僕もクロネにならい、短剣を鞘から抜く。

 短剣とはいえ、殺傷能力のある武器を持ち、僕はあきらかに緊張していた。

 命のやりとりなんて現代社会ではまずないからね。

 でもこの異世界に僕は望んでやってきたのだ。やってのけないといけない。

 僕は歯をくしばり、緊張と恐怖にそなえた。



 僕の眼の前に仰向けに倒れている村娘がいる。

 その村娘におおいかぶさるように緑色の肌をした小柄な魔者がまたがっている。

 びりびりと布が裂ける音がする。

 緑色の肌をした鬼のような顔をした魔者が村娘の服を破いたのだ。

 村娘の柔らかそうな胸があらわになる。


 僕はその緑色の肌をした小鬼のステータスをスキル鑑定で読み取る。

 緑の小鬼ゴブリンレベル7 特技スキル集団戦闘、遠吠え。

 それらの文字が緑の小鬼ゴブリンの顔の横に浮かぶ。


 ゴブリンか。

 ゲームやファンタジーのアニメなんかでは定番の敵だけど、こうして生でみるとかなりおぞましい表情をしているな。

 ゲームやアニメなんかでは雑魚敵扱いだけど今の僕よりもレベルが高い。

 だからといって、今襲われている女の子を見捨てるわけにはいかない。

 僕は短剣をもつ手にさらに力をこめる。

 また加速の特技スキルを使い、その緑の小鬼ゴブリンの背後に近づく。

 思い切ってやつの背中に短剣を突きつける。

 そして短剣を緑の小鬼ゴブリンの背中から抜き、首筋の頸動脈めがけて切りつける。


「ぐへっ……」

 耳をおおいたくなるほどの断末魔を放ち、緑の小鬼ゴブリンは絶命する。

 すぐにクロネがかけより、僕を襲おうとしていた別の緑の小鬼ゴブリンの体を蹴り飛ばす。


 称号「ゴブリンスレイヤー」を獲得しました。

 視界に文字が流れる。


「大丈夫ですか?」

 僕はたすけた村娘に声をかける。彼女はあらわになっていた胸を両手で覆う。


「は、はい。ありがとうございます」

 純朴そうな村娘は僕たちに礼を言う。

 周囲を見渡すとまだ緑の小鬼ゴブリンたちはいた。

 ざっと数えただけでも十匹ほどはいる。緑の小鬼ゴブリンたちは粗末ではあるが、手にそれぞれ武器を持っていた。


 他にも襲われている人がいる。

 これは助けないといけない。


「建物の中に隠れていて下さい」

 僕は村娘を近くの家屋に隠れるように促す。

 彼女は胸元をおさえて、家の中に入る。


 悲鳴があちこちで聞こえてくる。

「キャーゴブリンよ!!」

「だめえ、犯さないで!!」

  女性たちの悲痛な声がする。

 僕はまず手近にいた緑の小鬼ゴブリンに加速スキルで駆け寄り、短剣で切りつける。血しぶきをあげてやつは息絶えた。

 手に生物をころした嫌な感触が残る。

 僕は倒した緑の小鬼ゴブリンの手からナイフを奪い取る。

 左側から襲いかかってきた敵に投げつける。

 見事に緑色の小鬼ゴブリンの心臓に突き刺さり、やつは絶命した。


 特技投擲を獲得しました。

 なるほど有る種の行動をとればこうして特技として反映されるようだ。

 仕組みがわかってきたような気がする。

 僕は近くの石を拾い、緑の小鬼ゴブリンに投げつける。

 投擲スキルがあるので外れることはないようだ。

 敵の額に命中する。

 だがそれだけでは死ななかったようなので加速で近づき、心臓に短剣を突き刺す。

 嫌な悲鳴をあげて緑の小鬼ゴブリンは絶命する。

 その間にもクロネは次々と緑の小鬼ゴブリンを葬っていく。

 気がついたときには緑の小鬼ゴブリンたちを全滅させていた。


 緑の小鬼ゴブリンの一団を殲滅しました。

 レベルが8に上がりました。

 称号「流星使い」「疾風」「剣士」を獲得しました。

 緊急依頼クエスト 緑の小鬼ゴブリン退治をクリアしました。

 ドンレミ村の住人の好感度が最大になりました。


 視界に文字が流れる。

 どうやら戦いは終わったようだ。

 思ってもいない形で初めての戦闘を経験したが、どうにか大きな傷をおうことなく勝てたようだ。

 僕は震える手で短剣を収めようとしたが、それをクロネが制止する。

 クロネは手に持っていたボロ布で短剣の刃についた血液をぬぐった。

「そのままじゃあ錆びちゃうよ」

 クロネがきれいにぬぐってくれたので、短剣を鞘に直す。


 僕は肩で息をしていた。戦い終えたので座り込みたい気分だ。



「旅のおかた、本当にありがとうござます」

 家屋に隠れていた村の人が僕に声をかけてきた。

 四十代ぐらいのふっくらした体格の女性だった。

 ドンレミ村の村長ジョアンナと彼女の顔の横に文字が浮かぶ。

 どうやらこの人が村長さんのようだ。

 村長のジョアンナさんは僕の顔をまじまじと見つめる。

「も、もしかしてあなたは男のかたですか?」

 僕の顔を見つめたまま、ジョアンナ村長は言った。


「えっ男の人が助けてくれたの

「まあ、勇者様は本当にいたのね」

「なんて凛々しいおかたなのかしら」

「はあっとても素敵だわ♡♡」

 わらわらと村の女性たちは口々につぶやき、僕を円状にとりかこんだ。

 皆一様にうっとりした顔で僕を見ていた。

 これは悪い気がしないな。

 さっそくのエッチなイベントへの期待に胸が高鳴る。

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