第2話 魔女の返礼
真向かいに座る可愛らしい女の子は僕のことをお兄ちゃんと呼んだ。
僕は妹はおろか兄弟なんていない。そう言えば母さんが僕を生む前に姉がいたのだけども病死したといっていたことがあったけ。
両親は中学生の時に二人共事故で亡くなっている。
正真正銘の天蓋孤独である。
それにこの女の子は自分のことをクロネと名乗った。
僕の知るクロネは昨日拾った黒猫しかいない。
「そうだよ、僕はあの黒猫なのさ」
にひひっとクロネは微笑む。
「お兄ちゃんにお礼がしたくてさ、この
クロネはそう言った。
「やあ、こんにちはそれともこんばんわかな」
次に聞こえてきたのはハスキーな女性の声だった。
いつんまにかテーブルを挟んでむこうにむちゃくちゃセクシーな女性が座っていた。
漆黒の艶のある髪をしていて、胸元のざっくり開いた黒いドレスを着ている。思わず凝視してしまうほどの巨乳だった。たぶんだけど西瓜ほどあるんじゃないかな。
「アタシはこの子の師匠で魔女のジャック・オー・ランタンっていうのさ」
その巨乳黒髪セクシー美女はそう名乗った。
魔女は指をパチンと鳴らすと僕の好物のメロンソーダが目の前に現れた。
試しに飲んでみると甘くて、美味しかった。炭酸のシュワシュワ感がたまらない。
魔女の横にいるクロネはミルクをチロチロと舐めていた。
「ジャック先生、こちらのかたが僕を助けてくれた
クロネは僕のことをセクシー魔女に紹介する。
「そうかい。ありがとうね、朝倉さん」
にこりと魔女ジャックは微笑む。
どこか人を魅了するような優しい笑みであった。
初対面だけど僕はこのセクシー魔女への警戒心はゼロになっていた。
「まったく新月の夜は魔力がさがるんだよ。そんな日に真夜中の散歩なんてするから、怪我をするんだよ」
そう言うと魔女シャックはクロネの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ごめんなさい、師匠……」
本当にすまなさおうにクロネは魔女に謝った。
「さて、それでは本題にはいるよ」
魔女ジャックはその深い胸の谷間からスキットルを取り出し、一口ごくりと飲んだ。
ふーと熱い息を吐く。
ふんわりと酒の匂いを漂う。
基本的にはお酒はあんまり好きじゃないんだけど、このときは不思議と嫌じゃなかった。
「本題とは……」
僕は魔女の言葉を繰り返す。
彼女は何を言うのだろうか?
「そう、アタシは弟子を助けてもらったあんたにお礼をしたいのさ。なんだって言ってほしい。一つだけ願いなんでも願いを叶えてあげよう」
また魔女ジャックはぐびりとスキットルの中身を口に入れ、ごくりと飲み込む。上下に動く喉元が妖しいほどの色気があった。
魔女は何でも願いを叶えると言った。
ただし一つだけだ。
一つだけなんでも願いを叶えてあげると言った。
では、どんな願いを叶えてもらおうかな。
僕はこの棚からぼた餅のような話にドキドキしていた。
人生逆転のチャンスに間違いない。
ここでミスをしたくない。
一生かかっても使いきれないお金はどうだろうか。そうすればもうブラック企業で働かなくて良い。
いや待てよ、誰にも負けない異能力なんてどうだろうか。
もう一つの好きなジャンルであるアメコミヒーローみたいな活躍をしてみたい。
こういうのはどうだ。
イケメンになってライトノベルの主人公みたいな人生を送るものもいいな。
僕は頭が痛いほど悩んだ。
そうだ。やっぱりこれしかない。
「異世界にいって女の子にモテまくりたい」
僕は考えに考えた末、魔女にそう願った。
辛すぎる思い出ばかりの現実世界はもうたくさんだ。
家族も友人もこの現実世界にはいない。僕はしがない社畜童貞だ。
願いを叶えてくれるっていうなら、異世界にいって可愛い女の子やグラマー美女にちやほやされたい。
それは男だったら誰しもが思い描く妄想ではないだろうか。
そんな異世界があるなら、絶対に行きたい。
魔女が連れて行ってくれるなら、望んでそこに行く。
「いいよいいよ、そんな世界に君を送ってあげるよ」
ふふっと魔女ジャック・オー・ランタンは微笑む。
僕にずいっと手に持っていたスキットルを手渡す。
「その中身を飲むと君は自分が思い描いていた世界に行けるよ。念ためにきくけど、アタシが叶えるのは一度だけだ。アフターサービスぐらいはつけてあげるけど二度目はないよ。で、どうする。今なら願いをかえることもできるよ?」
目を細めて、魔女ジャックは僕の目を見る。
僕の心は決まっている。せっかく異世界にいって女の子たちからもてもてになれるというのに断る理由はまったくない。
「僕の気持ちは変わりません。魔女ジャック、僕を異世界に送って下さい」
僕は断言した。
魔女の手からスキットルを受け取る。
「良い答えだ。じゃあそのニコラ・フラメルの酒を飲み干しな。次に目覚めたら、君が望んだ世界にいるよ」
魔女の言葉のあと、僕はスキットルに口をつける。その中身を一気に喉に流し込む。
焼けるような痛みが喉を走り、胃の中を駆け巡る。
耐え難い痛みを全身を襲う。
僕はそれに耐えきれずに意識を失った。
「おにいちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん……」
それはクロネの声だった。
まぶたを開けると僕の視界にクロネの可愛い顔が入る。
そのクロネの顔の横に小さい文字が並んでいる。
クロネ・トリスタン レベル76
と書かれている。
次に魔女からの
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