第5.5話 後日談とネットの反応



「嘘……」

 思わず声に出てしまうくらいびっくりしたのは、スマホに大量の通知がきていたからだ。

【女子高生S・Mの怪談】

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 と言った様子で今まで後悔した5話それぞれにコメントやいいねがつき、小説投稿サイトの通知欄が更新しても更新しても光っている状態だった。その上、通知にはきていないが日刊ランキングホラー部門でも1位になっていた。

 これまでの人生で、私は何かで1番になったことはなかったからとても不思議な気分だ。少なくともこのサイトに投稿されているホラージャンルの作品の中で私が麻奈美のために記しているこれが1番。

「麻奈美……いるの?」

 ふと部屋の中に気配を感じて振り返ってみたが何もいなかった。幽霊は嫌いだ。自分勝手で怖くて理不尽だから。けれど、麻奈美だったらいくらだって出てきてくれてもいい、わがままだってなんだって聞いてあげたいのに。

 時刻は朝の7時。今日は従姉妹のエリカちゃんが泊まっているんだった。圭一おじさんとエリカちゃんは空き部屋に泊まっている。そろそろ起きてくる頃だろうか。

 私も、部屋を出るとリビングに降りて母に挨拶をする。母は多めの朝食を作っているからか忙しそうで、「顔洗っておいで」と忙しなく言った。

「うん」

 洗面所に行って顔を洗って歯を磨く、ぼうっと見つめるの鏡の中には眠そうな私が写っていた。ピカピカに磨かれた鏡は3面鏡で私が3人いるみたいだ。子供の頃、鏡が怖くてあまり好きじゃなかったこの場所も、中高生になっておしゃれに興味が出てからは3面鏡のありがたさに気づいたっけ。

「ん?」

 ふと、私の後ろに……正確には鏡の中の私の後ろに人型のような黒いモヤがいるのが見えた。バッと振り返ってみても見えないが、鏡の中にはじっと佇んでいる。

 昨夜はいなかったはずだ。昨夜どころか、この家には幽霊はいなかったはずだ。

「麻奈美……なの?」

 私が鏡の中に向かってそう問いかけると黒いモヤは微かに揺れて、ふっと消えていった。

 と同時に洗面所のドアがガタッと開くと眠そうな顔のエリカちゃんが「おはよ」と私に声を変えてきたのだった。

「おはよう、エリカちゃん」

「咲ちゃん、おはよぉ〜眠いねぇ」

 エリカちゃんはへにゃりと笑うと持っていたポーチから携帯用の歯ブラシを出して歯を磨き出す。

 鏡の中の黒いモヤは消えていた。

 あれはやっぱり麻奈美だったんだろうか。【女子高生S・Mの怪談】が目立つようになったから見つけてくれたんだろうか。



***


「厄祓いどうだった?」

「うん、いい感じ。ほら、昨日の昼間に話したあの怖い話のあとさめっちゃ足と肩が重かったんだよね〜」

 エリカちゃんは、明るい表情でおどけたが私は圭一おじさんがしっかりした人でよかったと心から思った。

 というのも、厄払いに行く前……つまり昨日の昼間に荷物を起きにきた時のエリカちゃんはとてもひどい状態だった。


 エリカちゃんの足元には複数の赤ん坊の幽霊がまとわりつき、エリカちゃんの方におぶさるように乗っかっていたのは、パッと見ても邪悪とわかるような女の怨霊だったのだ。


「ねぇ、大丈夫?」

 エリカちゃんは私に小声で言った。というのも私が視えることを圭一おじさんは知らない。

「うん、いなくなってるよ」

「よかった」

「うん、本当によかった」

「ねぇ、咲ちゃんお部屋で話そ」

 半ば強引に引っ張られるように私の部屋に向かうと、エリカちゃんは神妙な面持ちで昨日の怪談の続きを話し始めた。

 私はベッドに、エリカちゃんは勉強机の椅子に座って。

「あのね、昨日話した体験の話なんだけどさ、気になって詳しい先輩に話を聞いたんだけどさ」

「そんな人がいたの?」

「うん、大学にオカルト研究室っていうなんか意味深なサークルがあるわけよ。まぁ、その子たちに聞いてみたの」

「へぇ……」

 オカルト研究室、か。麻奈美が生きていたら絶対に入ったであろうサークルに嬉しい気持ちになりつつ私は彼女の話に耳を傾ける。

「例の真希さんって子。20年くらい前に若い教授と不倫関係になったんだって」

「不倫……か」

「うん、でね。学校で噂されてるのは真希さんが不倫相手だった事実をして5号館の講義室で自殺したとか教授を刺し殺したとかそういうのばっかりだったんだけどさ」

「だって、エリカちゃんが実際に講義室で真希さんって人から言われたことそんな感じじゃなかった?」

「そう、『待ってた』って。実はね、似たような経験をした人がいたっていう記録がオカルト研究室にあったんだよね。それでね、前に似たような体験をした人は霊能者に見てもらったんだって」

「へぇ……霊能者?」

「うん、多分ね咲ちゃんと同じく視える人。その時、真希さんの霊じゃなくて『水子』の霊が憑いてるって言われたんだって」

「みずこ……?」

「あぁ、水子っていうのは生まれる前に亡くなってしまった赤ちゃんの霊? ほら、中絶した後に水子供養とかそういうのするでしょう?」

 私はよくわからなかったがとりあえず「そうなんだ」と彼女の話を進める。

「それで、気になって調べてみたの。彼女に探すように言われた『called me』っていう洋書。そしたら……子供が母親を探すっていうストーリーだった。calledって電話って意味以外にも呼ぶとか名付けるとか色々含みがあってさ。だから、だから」

 エリカちゃんは、心底怖かったようで身震いしてからやっと絞り出すようにいった。

「もしかしたら、真希さん妊娠してたんじゃないかなって。それで、みんなのいう怪談みたいに死んじゃったんじゃないかなって。あの場所で」

「悲しくて……怖いね」


「うん、もうあそこには近寄らないようにする。だって、前に同じ経験をした人もお祓いしたんでしょ? なのに、私が経験したってことは……結局真希さんと赤ちゃんの霊はあの場所に戻ってしまってるんじゃないかな」


 私は、ゾッとした。

 だって、お祓いに行く前のエリカちゃんの足元には赤ん坊の霊が巻き付いていたのだから。


「うん、もう夜の授業取るのやめて近づかない方がいいよ」


 私はそんなふうにアドバイスをすることしかできなかった。

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