第4.5話 後日談とネットの反応



 

「私、だから看護師になるのは嫌なんだよねぇ」

 イタゼリアの安いイタリアン料理をいくつか頼んで、花澤さんはそういった。

「その話聞いちゃうと怖いかもね」

「でしょ〜? 私、霊感とまではいかないんだけどそう言う場所に行くと悪寒とか感じるんだよね。だから嫌だな〜って」

「それは、嫌だねぇ。けど、看護師さんって食いっぱぐれないっていうし親は進めてくるよね……」

「ほーんと嫌になっちゃう。あっポテト食べよ〜」


 多分、花澤さんのお母さんは相当過保護な人なんだと思う。だって、ずっと彼女の後ろについている生霊はナースの服をきているのだから。



***



 私は、この話を花澤さんから聞いた時「やっぱりな」と思った。幽霊にはさまざまなタイプがいるが、大きく分けると「死んだことに気がつかない者」と「死んだことに気がついている者」である。


 死んだことに気がついている幽霊は生前に執着している場所や人に憑いていることが多いが、死んだことに気がついていない幽霊は、警察署や市役所、学校など助けてくれそうな人がいる場所に集まりやすい。

 私自身、入院したことがなかったから入院病棟の中での経験がないが幽霊がナースステーションに集まると言うのはなんだが合点がいく。死んだことに気がつけなかった患者さん達がナースに助けを求めにやってるくるんだろう。

 きっと、花澤さんのお母さんは怖かったんだろうなぁ……。


 翌朝、土曜日なので昼までゆっくりと眠り、起き抜けにベッドの上でスマホに触れた。画面には、小説投稿サイトからの通知がいくつか。


【女子高生S・Mの怪談】

(お知らせ)新着レビュー 5件

(お知らせ)ブックマーク 20件

(お知らせ)週刊ランキング 48位


「えっ……」


 閲覧数が1000を超え、さらにはレビューにブックマークがぐんと増えていた。しかも、ランキングにまで入っている。


(お知らせ)新着コメント 15件


 コメント数も増えており、過去に投稿した話にもそれぞれ感想や誤字脱字の報告がついている。何がきっかけでこんなに閲覧者が増えたのかはわからないが、少しだけ嬉しい気持ちになった。と、同時にもっと怪談話を思い出さないといけないし、新しい話もみんなから集めないとと焦る気持ちにもなった。

「シマエナガさんは一番にコメントしてくれている……」

 いつも通り「とっても怖くて楽しかったです」とシマエナガさんからコメントがついていて、やっぱり麻奈美に見守られているような感じがした。一つ一つコメントに返信をして、それから誤字脱字は直してコメントを返す。

 そんな中でも閲覧数はリアルタイムで増え続け、何度か更新してみると新しくブックマークが何度かついた。

 スマホに夢中になっていると、1階から母の声がして私は食事をとりに向かった。


「おはよう、よく眠れた?」

 母は私の好きなパンケーキを焼きながら上機嫌にいった。父はどうやら朝から趣味のゴルフに行っているらしい。

「うん、美味しそう」

「パンケーキ、食べる?」

「うん、食べたい」

 私がそう言うと、母は涙でも流しそうなほど嬉しそうに微笑んだ。麻奈美が死んでから食欲も無くなって私は幾分か痩せてしまっていたから、母はずっと心配してくれていたのかもしれない。

 けど、私に生霊は飛ばしていないからそこまで過保護ではないのかも。

「そうだ、今日の夜兄さんとエリカちゃんがこっちに寄って泊まっていくって」

「そうなの?」

「うん、エリカちゃんが19歳の厄払いに近くの神社に来るからついでに顔見にくるらしいの。久々よねぇ」

 母の兄である圭一おじさんとその娘、私の従姉妹であるエリカちゃん。エリカちゃんは少しだけお姉さんで小さい頃はよく一緒に遊んでいた。大阪に住んでいる彼女が夏休みになるたびにこっちに遊びにきて、一緒に東京まで出て行ってプリクラを撮ったり流行りのお店に行ったり……。

「久々だなぁ、お正月ぶり?」

「お洋服、買っておいてよかったね、咲子」

 母はパンケーキをお皿に乗せると私にとりに来るようにいった。母特製のパンケーキは2枚も重なってバターが溶けて美味しそうだった。このパンケーキ、いつだが麻奈美が泊まりにきた時に一緒に食べたっけ。

「咲子」

「ん?」

「いつか、いつかでいいのよ。麻奈美ちゃんのこと素敵な思い出をたくさん思い出してあげられるように前をむこうね」

 ぐっと涙が溢れてきた。と同時に私の中にある一つの疑問が生まれる。


——どうして、どうして麻奈美は出てきてくれないんだろう。


 絶対に、未練が残るような死に方だったのに。どうして、どうして彼女はどこにもいないんだろう?

 ポケットの中でスマホが通知音を鳴らした。小説投稿サイトからの通知だった。


 もう少し投稿を続けて、麻奈美が喜ぶような怪談を書かなきゃ。



 







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