ドローンの課長

ブーン…。


両肩と腰をドローンにつながれ、床から30センチほど浮いた山田課長が目の前を横切っていく。


私がこの佐久主商事に転職してきて数ヶ月。


営業支援システムの開発職ということで気合を入れて入ってみたら、高齢でフラフラの先輩方をドローンで吊るして目的の営業先に飛ばす仕組みの開発が待っていた。


いや吊るされる皆さんは移動が楽になったと喜んでいるし、一応営業を支援しているわけなのだけど。なんというか…思っていた開発職とちがう。老人が吊るされて飛んでいく姿を見た時の罪悪感が半端ではない。


次に取り組んだのが、コミュニケーション支援ゴーグルの開発である。


頭にヘルメットのようなゴーグルを装着することで、相手の話した声が字幕のように目の前に表示され、書類の内容は瞬時にスキャンされて要約した内容が表示される。耳が遠くなって相手の話が聞こえず、目が悪くなって契約書の小さい字が読めなくなってきたさらに年配の先輩方向けのシステムである。


これもまた当人達には大好評。契約がバンバン決まっているらしい。


自分で作っておいて言うのもあれだが、ドローンに吊るされ、でかいゴーグルを装着したロボットのような状態の老人を相手によく契約しようと思えるものだな、と思う。


それにしてもうちの会社はどれだけ高齢者を使い倒すつもりなのか。


そんな風に思いを馳せていると、次のプロジェクトの企画書が届いた。


「営業完全ドローン化プロジェクト」


悪い予感をさせるタイトルに顔をしかめながらページをめくる。コミュニケーション支援ゴーグルを進化させたデバイスを頭に装着することで、営業社員が社内からドローンを営業先に飛ばして商談を行えるというものらしい。ドローンにはホログラム投影機能が備え付けられ、それによって映し出された営業社員のアバターが縦横無尽に動き回りながらプレゼンする。客先に行くことすら難しい先輩方向けの最終兵器である。


…吊るされない分、これまでの高齢者をロボット化していくシステムよりはマシなアイデアに思える。いやもしかして画期的なシステムになるのではないだろうか。早速開発に取り掛かろう。


...


それから数カ月後。


頭にデバイスをつけて遠隔商談中の営業社員の皆さん。ピクリとも動かない老人が大量に横たわる光景はさながら死体安置所である。部屋の様子を見てしまったのか、廊下から女性社員の悲鳴が聞こえる。


自分で作っておいて何だが、目の前の光景を見るとこのシステムを作ったことが正しかったのか疑問に思えてくる。


いや当人たちは喜んでいるのだけども。

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