大吉の光
神職として新たに着任した神社で初めての年始。
「噂には聞いていましたが本当にすごい人出ですね!」
お守りやお神札を求めて押しよせる初詣客に対応する巫女達を一緒に見てまわりながら、宮司に話しかけた。
「そうですね、ありがたいことです。夜光おみくじはまだまだ人気があるようですね」
宮司が答える。
既に日は沈んでおり、人混みの向こうに灯籠で照らされた参道が見える。参拝を終えた晴れ姿の女性二人がキャッキャと話しながら歩いていた。それぞれ手に淡く光る紙を大事に持っている。
「夜に光るおみくじは他では手に入りませんし、写真映えしますからねぇ。なぜ光るのか誰にも分からないというのがちょっと怖いですが…」
「先代の宮司がここに来た時には既に光っていたようですから、ずっと前から光っていたのでしょうね。ところで"大吉"はちゃんと抜いてもらえましたか?」
「え、大吉を抜く?おみくじからですか?」
初耳である。
「そうです。大吉が引かれるととんでもないことになるので、必ず抜いておかなければならないのです。その様子だと抜いてなさそうですね。他の神職が抜いてくれたのでしょうか…急いで確認した方が良さそうですね」
「と、とんでもないこととは…?」
「それは…」
その時、女性の声が響いた。
「やった、大吉だっ!え…眩しいっ!!」
声と同時に周りがまばゆい光に包まれた。
「これはまずい!!」
宮司の焦った声が聞こえるが、眩しくて何も見えない。
「このサングラスをかけて人々を神社の外…いや市外へ避難するように誘導してください!」
手渡されたサングラスをかけて目を開けると、何とか周りが見えるようになった。サングラスをかけた宮司が先程大吉を引いた声がした方向へ走っていく。
巫女達の方を見ると、しっかり訓練されているようで全員サングラスを掛けて混乱する参拝客にサングラスを手渡して声をかけている。
こうしてはいられない!
私もサングラスの入った箱を抱え、参拝客を避難させるために走り出した。
数時間後。
どうにか参拝客を全員避難させ、神社から数キロ離れた警察署で宮司や他の神職と合流した。神社の方を見るが、太陽のような光を発していてサングラスを掛けても直視できない。夜中を過ぎているのにまわりは昼間のように明るい。
「驚いたでしょう?ご存知の通り夜光おみくじは夜になると光るのですが、大吉の場合はその光が街全体を照らすほど強いのです。混乱を避けるために大吉はあらかじめ抜いておく決まりになっていました」
宮司が教えてくれる。
「過去の記録によるとこの"大吉の光"は次の年明けまで1年間続くようです。その間この街はずっと昼間のような明るさ、夜が来ない街になります」
深刻な話に聞こえるが、宮司の顔は明るい。
「明るくて夜寝つきにくいという不便さはありますが、"大吉の光"は祝福の光。この期間の間、光が届く範囲では様々な幸運が降り注ぐと言われています。観光客が増えそうだということで市長も喜んでおられるようです」
明日から1年間、この街はちょっとしたお祭り騒ぎになるらしい。
自分にどんな幸運が降り注ぐのだろうと考えていると、話し終えた宮司が私の肩を叩く。
「夜光神社は眩しすぎて立ち入りできないので、1年間はお休みです。着任して早々で申し訳ありませんが、君には年が明けるまで別の神社に行ってもらいますね」
…幸運が降り注ぐ前に別の街への異動が決まってしまった。
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