白骨化スマホ

自動ドアを通って店に入ると、やたら明るいスタッフに迎えられた。


「いらっしゃいませ!スカルモバイルへようこそ!本日は乗り換えですか?こちらへどうぞ!」


テーブルを挟み向かい合わせに座る。スマホをテーブルの上に置き、氏名や年齢等の質問にボソボソと答えた。


「見たところまだまだ乗り換えは必要なさそうですが、何か問題でも?」


「半年くらい前から調子が悪くて…あちこちで診てもらったんですけど治すのは難しいみたいで…もう乗り換えるしかないかな、と。」


「そうですか…まあだいぶ機能が変わるので乗り換えを躊躇される方は多いですけど、慣れたら便利なものですよ。見ての通り私も使ってます!」


カカカッ、とスタッフが自分のスマホを指して笑う。


「あ、これは言っておかないと。このデバイスへの乗り換えは資源節約のために国から推奨されているので、実質無料です!さらに今お使いのスマホを下取りに出していただけましたら、ポイントを贈呈します!まあ乗り換えしちゃったら今のスマホは使えなくなるので持っててもしかたないですけども!」


またカカカッと笑い、骨ばった…というよりも骨そのものの手で私のスマホを掴んで自分の頭蓋の耳の部分に当て、「聞こえない~」とおちゃらけるスタッフ。


たぶん場を和ませようとしてくれてるのだろうけど、ちょっと不謹慎なやつだな…。こちらは緊張で震えているというのに。


「では乗り換え手続きを進めてしまいましょうか。お客様には処置室に移動していただき、麻酔で眠っていただきます。眠っている間にお客様の脳をこちらのスケルトン体に移します。」


スタッフが後ろを示す。そこには透明なカバーをかけられた骨格標本のようなものが立っている。…私の新しい体だ。


「目が覚めたらもう病魔とは無縁の体になってますよ。便秘やダイエットととも無縁です!脂肪も内蔵もなくなりますからね!」


いちいち不謹慎な発言を挟まないと話せないのかこいつは。


「こめかみの部分にあるデバイスが移植された脳と接続され、このデバイス経由で体を操作します。今の体と同じ感覚で動かせるはずですよ。このデバイスにはスマホ機能も含まれていて、意識するだけで視界に画面が映し出せるようになっています。スマホ大好きな人類はついにスマホと一体化してしまったわけですね!」


はい不謹慎。


こうして私はお気に入りのスマホと、30年間一緒に生きてきた肉体の両方を失なってスマホ機能付きスケルトンになった。


"乗り換え"を終えて自分の体の動きを確かめていると、デバイス経由でスタッフの声が頭に入ってくる。


「フハハハ、また一人死者の軍団に加わったようだな!世界征服に一歩近づいたわ!」


…え?


「なんてね、冗談ですよ冗談。乗り換えお疲れ様です!スケルトンも悪くないでしょう?」


悪くないけど、こいつは殴りたいな。

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