第17話

「お酒~♪お酒~♪あ、ファティ。こっちに来てください」


「ワン?」


「ふふ、ピース」


「ワン!?」


メイベルがスマホのカメラ機能を使ってファティと一緒に映ろうとするが、ファティは驚いて俺のところに逃げて来た。


「あらぁ、ボケちゃいましたね~」


ファティが動いたのだからそれも当然だろう。それでも残念そうには聞こえない。


「どう?スマホは?」


「はい!とても楽しいです!業腹ですが、人間の技術力の高さを再確認させられました」


「それは良かった」


ソファーに寝そべってスマホを動かしている様子は完全に人間そのものだったけど、それを言うと怒りそうなので心の中にしまっておく。


「さて、ご飯だ。メイベルも一度スマホを消そうか」


「ふふ、今日はお酒の日ですね!」


「うん」


今日は週に一度の酒解禁の日。せっかくなので、美味しいものを食べようということで高級寿司を『ユーバー』で頼んだ。後はファティ用に高級牛肉。お菓子やつまみは在庫がたくさんあるので、台所から持ってくる。


「お酒~♪お酒~♪」


俺の背後でメイベルが冷蔵庫を開けて、発泡酒と『がちよい』を持ってくる。どうせ二人ともすぐに2、3本飲むから、丸テーブルの上には酒が6本ほど常備されている。


「それじゃあいいかな?」


「はい!」


「ワン!」


メイベルがカシュッと音を立てて、発泡酒を開ける。もちろん俺も発泡酒だ。ファティは飲まないけど、俺たちの音頭に合わせて、待っている。


「「乾パ~イ!」」「ワン!」


グイっと飲み干す。喉の奥を泡が通り過ぎていくのを感じる。ちらっとメイベルを見ると、大酒豪みたいにラッパ飲みしていた。


「かああああうめええええですうううう!」


発泡酒を丸テーブルに叩きつける。そして、さきいかを胡坐で立膝を立てながら、噛み続けるその姿はおっさんそのものだった。もちろんそんなことは言わない。だって、怖いし…


「ふふ、とてもいい気分です。具体的に言うと、S〇Xをした時と同じ気分です」


「もう少しオブラートに包めない?」


「そんなことを気にしないでくださいよぉ」


メイベルが笑いながら俺の背中をどんどんと叩いてくる。加減が利かなくなっているのか、『身体強化』状態で俺の背中を叩いてきているので、普通に背骨が折れて、衝撃で心臓が止まった。


(まさか宴会で殺されるとは…)


俺が死んだことに気が付かないのか、メイベルは俺の肩に頭をコテンとのっけて甘えてきた。


「ふふ、まさかあの少年が私のダンジョンの中層までクリアできるなんて思いもしませんでした。とってもいい子ですねぇ~」


「子供扱いは勘弁してくれよ~俺ももう、30だよ?」


俺の頭を撫でてくるが、30にもなって頭を撫でられるというのは恥ずかしい。


「私にとっては15であろうと、30であろうと誤差でしかありません」


「それを言われちゃおしまいだけどさ…」


メイベルにとっては今を生きる人類すべてが赤子も当然なのだろう。すると、俺から少し離れて正座で俺の方を見てきた。


「頑張って大人ぶろうとしている隆司さまにご褒美をあげましょう」


「大人なんだけどなぁ」


「ふふ、反論なんて生意気ですねぇ」


文言とは違ってメイベルは楽しそうにこっちを見ていた。そして、自分のももをポンポンと叩いた。


「いつも頑張っている隆司さまに『お姉さん』から膝枕のご褒美です。どうぞこちらへ」


こっちに来てくださいと言われているようだった。後、『お姉さん』という言葉が俺に刺さった。


(ま、まぁ。酔ってるしこういうのもいいだろう。うん)


恥ずかしさもあったが、すべて酒のせいにしてしまえばいい。幸いなことに見ているのはファティだけだ。


「…それじゃあ遠慮なく」


「はい」


「こ、これは…!」


メイベルの膝の上に頭を乗せる。ふんわりと感触とメイベル特有の良い匂いが鼻孔をくすぐった。この枕で寝落ちしたい。ただ、聖母のように俺を見下ろす、メイベルと目が合うと若干罰が悪かった。俺は半身になってメイベルの視線から逃げた。


けれど、メイベルは俺の内心など見抜いてしまっているようだ。クスリと笑っていたのが、俺の耳に届いた。


「ふふ、満足していただけたようで良かったです。ですが、ご褒美はこれからですよ?ふふ、まさかこのスキルを使える時が来るなんて思いもしませんでした」


「え?痛くないよね?」


スキルという言葉を聞いて反射的に聞き返してしまった。


「はい。むしろ気持ち良すぎて死んでしまうかもしれません」


「何それ怖い」


「ふふ、スキル『耳かき』」


メイベルの手に『耳かき』の棒が現れた。そして、それを掴むと、俺の耳に優しく入れてきた。


「お、おおおおほおお」


(なにこれぇ?天国?ここは天国なのか?」


コリコリと耳の中を耳かきが俺の中の悪い物を取り除いてくれているようだった。


「ふふ、どうでしょうか?」


「きもちよしゅぎですうぅ」


呂律がうまく回らないほど、気持ちいい。メイベルのももの感触、そして、匂いに、超絶素晴らしい耳かきのテクニック。すべてが合わさって俺は文字通り死ぬほどの快楽を得ていた。


「ふふ、では反対側もやりましょうか。隆司さま、身体の向きを反対にしてもらえますか?」


「ふぁい」


メイベルに言われるがまま、身体の向きを反対にすると、メイベルのお腹がある。ちょっとだけ身体を離すと、


「少しやりづらいので、もう少しだけ近づいてもらってもいいですか?」


「あ、はい」


言われるがままにメイベルに近付く。少しだけ失礼だと思ったが、メイベルのお腹はとても良い感触だった。鼻孔をくすぐるいい匂いも頭に直接与えられる。そして、そこにスキル『耳かき』だ。


「ふふぁあああこれは天にも昇る気持ちじゃあぁ」


「ふふ、喜んでいただけたようで何よりです」


俺はそのままメイベルに身を預けて、快楽を貪った。


━━━


━━



「はぁ、気持よかったぁ」


不思議と身体全体が軽くなっていた。三十年かけて溜まってきた悪い物がすべて取れたような気持ちだ。


「ふふ、また今度してさしあげますね」


「ありがとう、メイベル」


時間にして五分弱くらいだが、その間はずっと天国にいるような気分だった。


「ふぅ、それにしても酔いが冷めちゃったなぁ」


「そうですね」


なんとなく缶を開けて飲むという気分じゃない。寿司も残ってしまっているが食べる気にならない。メイベルも同じ気分なのだろう


「ワン?」


「ん?」


ファティが吠えてきた。前足で寿司をさしていたので、おそらく寿司を食べたいということなのだろう。


「食べていいよ」


「ワン!」


丸テーブルだとファティが食べづらいだろうから、ファティの皿に寿司を置いてあげる。すると、がつがつと食べていった。尻尾のテンションもブチあげていたから、相当美味しかったのだろう。


「ふふ、喜んでいますね」


「そうだね」


「ワン!」


すぐに平らげて皿を持ってくる。俺は再び寿司を置いてあげると、また貪っていた。ファティが残りのご馳走をすべて平らげてくれたおかげで残飯が出なくてよかった。


ゴミを片付け、机を拭き、お湯を沸かしてお茶を飲む。お酒を飲んだ後はお茶を飲むと酔っておかしくなっていた頭がすっきりする。


二人で熱いをお茶を飲んで一息吐く。ファティはすっかりお腹いっぱいなのかソファでくつろいでいた。時間がゆっくりに感じられるほど、俺たちはだらけきっていた。


「ちょっと手持ち無沙汰になっちゃったなぁ。寝るにはまだ早いし」


時間は八時くらい。寝るにはまだ早い。


「ふふ、でしたら、アレをやりましょう」


「アレ?…まさか?」


「中層クリアで手に入れた『スキル石』を使いましょう」


「な、な~んだ。そっちか」


てっきり喰われるのかと思った。


「ふふ、まだ・・早いですよ」


「あ、はい」


どっち道喰われるという事実は変わらないようだった。メイベルは『箱』から『スキル石』を取り出す。丸テーブルの上に『スキル石』がごとりと落ちてきた。


「やり方は前の時と同じです。触れていただければ石に文字が浮かび上がってきます」


「了解」


俺は一度深呼吸をした。そして、『スキル石』に手をかざす。『スキル石』が発光し、文様が浮かびあがってきた。


「あ、ああ、そんな…」


「ええ…」


メイベルは絶望の表情を浮かべ、俺はというととても困惑をしていた。ファティも起き上がり、「?」という顔をしていた。




「ま、まさか。『魅了』だなんて…!」




メイベルは頭を抱えてしまった。


スキル『魅了』、自身の魅力を何倍にもして相手を好きにさせるスキルだ。家族やそれに近しい者には効果はない。ランクはAでスキルとしては破格だ。ただ、ダンジョンの探索には向いていない。『魅了』はモンスターにすら効果があるのだ。


『魅了』持ちがパーティに入っていると、スタンピードが頻繁に起こり、何度も絶滅してしまうというお墨付きだ。


だが、地上で活動しようと思うなら『魅了』は最高のスキルだ。『魅了』持ちがCMをやればその商品は確実に売れるし、ニューチューブを始めれば一気に人気になれること間違いなし…というのが一般的に知られている『魅了』だ。


ただ、この『魅了』には一つのデータがある。それは元々、イケメン、美女である者にしか手に入れることができないスキルだということだ。早い話、イケメンをさらにイケメンに、美女をさらに美女にするというのが、『魅了』の効果だ。


で、俺はなんの因果か、『魅了』を手に入れてしまったわけだ。残念ながら俺は顔は下の下だと思っているし、スタイルもそんなに良くない。何より女子が大嫌いなおっさんだ。何が言いたいかというと、0に何をかけても0ということだ。だから、


「くっ!なぜ隆司さまに『魅了』が…!確かに私の夫は世界一のイケメンで誰よりも優しいですのである意味では一番相応しいのですが…!」


メイベルが悔しそうに床に両手を付いていたが、メイベルの俺への評価の高さが色々筋違いすぎて、笑ってしまう。


「メイベル、大丈夫だよ。俺は世間的に見たら、魅力なんてないし、モテるわけがないよ」


「私の夫がモテないのならこんな世界は滅びてしまえば良いのです」


(真顔のメイベルさん怖すぎぃ)


厄介オタクの様相を醸し出しているメイベルさんに若干引いてしまう。


メイベルとは違う方向だけど、俺は本当にハズレスキルを引いてしまったと思う。『自爆』は『不老不死』と合わせればとても強力なスキルだと分かったけど、今回ばかりはどう使えば良いのか分からない。


「これは雌対策を立てなければなりませんね…寄ってきた女は隆司さまを二度と見れないように目をくりぬくのがよいのでしょうか?いや、今度はそのイケボで魅了されてしまいます。でしたら、耳も聞こえないようにしないといけませんね━━━」


「メイベルぅ?」


「あっ、失礼しました。少しだけ考え事をしてしまいました」


「ああ、うん」


にっこりと俺を見てきたが、言っていることはすべて聞こえてきたので俺は苦笑いしかできなかった。


「ふふ、仕方がありません。『魅了』を発現し、私を心配させた責任をとっていただきましょう」


メイベルが服を脱ぎ始めた。この流れには文句を言いたい!


「ふ、不可抗力だぁ!」


「言い訳無用です♡」


あまりの理不尽に俺は声を上げるが、衣服を脱ぐスピードは一ミリも遅くならなかった。そして、俺は理不尽にサキュバスに喰われてしまった。


━━━

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