第7話
部屋に戻ると、既に時間は夕方だった。夕飯を作る気力は既になかったので、ユーバーでメックのポテトとハンバーガーを頼み、後はさきいかと枝豆、そして、唐揚げを用意し、最後に社会人にとっての神器、発泡酒を用意した。
「かあああうまい!生きているって最高!」
死んだからこそ余計に生を実感できた。ビールは死んだ時に飲むのが一番うまいのかもしれない。なんなら回復薬だ。
「人間たちには辟易していますが、唯一の良いところは食事が美味しいということですね。このジャガイモを加工したポテトが中々美味です」
「ワンワン!」
『不死王』のメイベルが俺の家でメックをご機嫌で食べている図は中々シュールだ。ファティも美味しそうに唐揚げを食べている。
「そういえばメイベル達は食事はどうしてたの?」
ダンジョンでの食生活がなんとなく気になって聞いてみた。
「ファティはモンスターを狩って食事をしています。私は基本的に食べません」
「ということは結構久しぶりの地上の食事?」
「はい。最後に食事をしたのがいつだか覚えていません」
「そうかぁ」
「ですが、食事というのはやはり大事なものです。『不老不死』のおかけで、生きるために必要なものがなくなりましたが、人生に彩を与えてくれる食事は抜いてはいけませんね」
「うん。大事だと思う」
今の人たちは色々なことを省略しすぎだと思う。
仕事で朝が早いからご飯を食べない。仕事があるから好きなことをやらない。仕事があるからやりたいことを断念する。
(アレ?仕事ばかりだな)
つい先日まで仕事、仕事、仕事だった俺からすると、本気で無駄なことをしていたなぁと思う。
「大事なのは三食食べること、ストレスのない生活、そして、美人な嫁ともふもふの愛犬がいることだと俺は悟った!」
「まぁ、嬉しいことを言ってくれますね」
「事実だしね」
酔っているからか、口が軽くなっていた。今の俺は何よりもダンジョンを攻略できたことに充実感を覚えていた。
メイベルに嵌められた形になったが、自分一人でダンジョンを攻略し、目的のモノを手に入れることができた。いつも勉たちが楽しそうに冒険している姿を見て、俺もやってみたいと心のどこかで思っていた。
やっぱりダンジョンに潜ったからには冒険だ。人生で一番嬉しい出来事だったかもしれない。
「ふふ、『不死王ダンジョン』の主としては複雑ですが、妻としては隆司さまが喜んでくださって感無量です」
「ワン!ク~ン?」
「ふふ、ファティったら、食いしん坊なんですから」
メイベルが唐揚げを床に置いてあるファティ専用の皿に乗っける。それをがっついて食べるファティを見ていると癒される。
俺も発泡酒を味わいながら、さきいかと枝豆でアクセントを付ける。これがうまいのよ。
そんな感じでだらだらと一時間くらい過ごした。ひとしきり飲んで食ってを繰り返すとだんだん酔いが冷めてきた。
メイベルが空になった容器を片付けてくれて、テーブルを拭いてくれた。ファティも食い疲れたのか、俺のソファで横になっていた。
「ありがとう」
「いえ、妻として当然です」
台所で片づけをしているメイベルはにっこりと俺の方を見てきた。メイベルさんが良妻すぎる。
料理をしたり、ご飯を食べたりすると、片付けが待っている。一人暮らしをする時に感じることは普段当たり前だったことが、実は誰かによって与えられていたものだと実感する。
(今日は甘えさせていただこう。だけど、明日からは通常運転に戻らないと)
だから、今日は許してくださいと心の中でメイベルに謝りながら感謝する。
「ふぅ」
ファティがソファで横になっているので、俺はファティのお腹を椅子代わりにさせてもらって、もたれさせてもらう。そして、テーブルの上に置いてある今回の戦利品、『スキル石』を眺めた。
「一体どんなスキルを貰えるのかな」
15になった時にスキルを貰って以来だ。『浄化』で残念だったけど、ファティとメイベルのためになったなら圧倒的に良かったと思う。
だけど、あまり期待してはいけないと思っている。スキルはランダムだし、良いのが手に入ったらラッキー程度に考えておく。少なくとも、今より弱くなることはないんだから、加点方式で考えておく。
「お待たせしました」
「ありがとうメイベル」
メイベルが片づけを終えて、部屋に戻ってきた。そして、俺のすぐ真横に座ってきた。
「それでは始めましょうか」
「うん」
「といっても仰々しい儀式はありません。隆司さま、『スキル石』の上に手を置いてもらっても良いですか?」
「ちなみに痛みとかはないよね?」
『血の池』でのことを思い出して、少しだけジトっとメイベルを見た。クスっと笑った。
「はい。手を置いていただければそれで終わりです」
「そうか。じゃあ始めようか」
「幸運を祈ります」
「ありがとう」
メイベルが祈るような仕草をする。元『聖女』であり、シスター服に身を包んでいるだけあって物凄く様になっていた。
俺は『スキル石』と向き合う。どんな能力が出るか分からないがやっぱり期待してしまう。
「よし、行くぞ」
一度深呼吸をした。そして、『スキル石』に手を乗っけた。すると、『スキル石』が発光した。思わず手を引っ込めてしまったが、すぐに異変が起こった。『スキル石』に文様が浮かび上がってきた。
よくよく見てみると、それは文字だった。
「これは…」
「まぁ…」
「ク~ン?」
ファティが『スキル石』の光で目を覚ましてしまったがそれどころじゃなかった。メイベルが目を剥いていた。
「これは想定外ですね…」
メイベルが驚いている姿なんて見たことがなかった。だが、俺もそれどころじゃなかった。
「スキル『自爆』って…」
俺たちの業界では非公式にスキルにランクが付けられている。ランクは通常AからEまでランクがある。勉の『身体強化』はAで雅の『回復』もAだ。俺の『浄化』は言わずもがなEだ。『契約』は分からないが効果を見るに、Bくらいだと思う。
ただそんなスキル構成にはもちろん例外はある。メイベルの『不老不死』は強力すぎる故にSランクに分類されている。発現されたら、国家規模でヘッドハンティングが起こる可能性がある。
上限はそれでいい。だが、問題は下限の方だ。ランクの最低はEだとされているが、その下がある。それは
俺の『自爆』はそれにあたり、Fランク扱いされている。使ったらすぐに死ぬスキルなんて使い道があるはずがない。
ある意味で伝説的なスキルを引いてしまった。どんなスキルでも悪くはならないと言ったけど、これは流石にあんまりだ。
「ハズレかぁ」「やりましたね!」
「「え?」」
俺とメイベルの反応が正反対だった。意外なことに俺もメイベルもお互いに同じ表情で見ていた。
「あの、メイベル?これのどこが当たりなの?」
俺は当然の疑問を投げかける。すると、
「『自爆』は最強の攻撃力を誇ります。フロアごと爆破できるので、殲滅に向いていますし、隆司さまにピッタリだと思ったのですが…?」
「いやいや、それで死んじゃったら終わりじゃん」
「え?」
「え?」
時が止まる。
「あの、隆司さま。重大なことを忘れていませんか?」
「え?なんだろう」
メイベルは溜息を吐いた。
「隆司さまには『不老不死』があります」
「あっ」
「お分かりになりましたか?隆司さまは自爆を何度でも使えるんです」
「マジかぁ…」
俺にはメイベルから受け継いだ『不老不死』があった。これがあれば死んでも生き返ることができる。その特性を使えば、一生に一回の技を何度でも使うことができるのだ。
(いやいや、それでも連発なんてしたくないわ。というか死にたくないし…)
爆破に耐性なんてできるわけがないから、毎回爆死の痛みを味わうことになるのだ。そんなの想像しただけで嫌だ。
「羨ましいです。私、色々な死に方をしていますが、爆死だけはしたことがないんです」
「そんなことで羨ましがられても困るよ…」
メイベルはやっぱりズレているなぁと思うことがある。死への圧倒的軽視。これがこれからの夫婦生活でネックになってくるなぁとなんとなく予想できた。
すると、メイベルが冷蔵庫から発泡酒を二本取り出してきた。そして、俺に一本渡してくると、後はメイベルが開けた。
「とりあえず、祝杯をあげましょう。『自爆』に乾杯!」
「か、乾杯!」
全然嬉しくないけど、メイベルが祝ってくれているからノリでなんとかする。
(アレ?メイベルって飲めるのか?)
ゴクゴクとラッパ飲みするその様はまさに酒豪だった。そして、一気に飲み干すと、
「かあああうめええええですぅ!」
「よ、よっ!いい飲みっぷり!」
おっさんのような声に驚いてしまったが、なんとか音頭を取る。会社でエース社員の勉や上司たちを持ち上げるために培った技術が咄嗟に反応した。
「ぷはぁ!美味しいですねぇ~隆司さまぁ」
「ああ、うん」
アレ?何か嫌な予感が…
「あらぁ、隆司さまがたくさんいますぅ」
「俺は一人しかいないよ」
間違いない。メイベルは酔ってしまっていた。
「たかししゃまが一人、二人、たかししゃまの死体が三人、えへへへぇ~」
「俺は一人って、むぐぐぐう!?」
メイベルに唇を奪われ、舌使いが凄まじかった。
「ふふふ、たかししゃまが何人いようともぉ~、妻として私はぁ、一人ずつ相手をして差し上げますぅ」
「メ、メイベル!正気に戻るんだ!」
「ふふふふ、まずはひとりめぇ、いただきましゅう!」
俺は服を脱がされ、獣のような勢いで精魂尽き果てるまで吸い尽くされてしまったのだった。
この日から俺はメイベルには酒を与えないと心から誓った。
━━━
☆☆☆とブックマークとハートをくれると嬉しいです…!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます