闇オークション
ー・ー・ー
ー1000っ1200、1200!1500いませんか1500!ー
もうすぐ私の番だ。
この壁の向こうではオークションが行われている。
「上場番号142番、北大陸リッキー山脈より下りし野生馬。その美しい長毛は寒さをもろともせず、太い脚はどんな荒地でも進み続けるでしょう。この馬の引く馬車は他のどんな豪華絢爛な魔導馬車よりも気品高く、御方の高潔を体現するでしょう。」
左の檻に居た子、そんなすごい馬だったんだ。
かなり脚色はされているみたいだけど。
売り文句に踊らされ、買値はどんどん吊り上がっていった。
ー5000!5200!VIP席の方6000頂きました。
6200、6200!いませんか。では、ケモスキ伯爵夫人様ご落札です。ー
ここでの平均相場は1000バーク(円換算一千万円)といったところだ。
高額落札に会場が湧いていた。
「上場番号143番。あのアテーナステークスを制した、最速馬疾走のヨセフーリアの産駒。今後の活躍に期待です。」
ねえお兄さん、もうちょっと盛れないのかな。
「あの見た目、醜いわ。」「あのブチ模様は少しな。」
「あの腹で走れるとは思えん。」
あ…。今結構傷ついた。体型は本人も気にしてるんですー。言わないでー。
ー500から参りましょう。500!520いませんか、520!ー
誰も手を挙げない。
「ちょいと。」
「はい、どうなさいましたか。カトリーヌ様。」
「この子のスキルは何ですの。」
おお、そうだ。私にはとっておきのスキルがあるんだぞ。さぁ、教えたまえ。お兄ちゃん。
「143番のスキルは…。」「…。」
「…爆走です。」「…。」
「爆走!?聞いたことがない。」「不似合いなスキルだこと。」「豚に真珠だな。」
えっ…。そんな…。
認められないのは分かってる。パパだって腹を抱えて笑ったさ。
でも、でも。見た目で人を判断するんじゃなーい。特にお腹は見るんじゃなーい。
唯一の誇りを潰され、私のアイデンティティは拡散した。
「10万。100000バークでこの子を買うわ。」
「…えっ。」
どういう事だ、と会場がどよめく。
私も何が起こったのか分からなかった。
「カトリーヌ様っ。それはっ。」
「ダメかしら。」
「いっ…いえ。」
VIP席でもひときわ目立つ淑女。黒を美しく着こなした女は札を挙げた。
「カトリーヌ・グラウナー様、上場番号143番、10万バーグでご落札です!」
静寂の後、一人、また一人と手を叩き始め、会場は割れんばかりの拍手で包まれた。
10万バーク、日本円にして10億。
私の計算が間違っていたとしても、この金額が桁違いであることは確か。
でもどうして。全く分からない。あれだけ酷い評価だったのに。
物好き…。
ーなんだって。騎士団が。ー
何やら裏方が騒がしい。
「皆様、申し訳ありません。早まりますがここで解散のお時間とさせていただきます。お出口より、速やかにお帰りくださいませ。」
急なアナウンスに戸惑う声が飛び交う。
一体何事だ、と。
「みなさん、落ち着いてくださいまし。また近いうちにこのオークションは開かれます。またお会いできるのを楽しみにしておりますわ。では。」
あの淑女は供を連れ、扉を抜けた。
それを見た他の客人は口を閉ざし、次々と去っていった。
そして、私たち馬も綱を引かれて場をあとにした。
「早くしろ、騎士どもが来ちまう。」「おい、全部も入らねえぞ。」
「分かってるよ。Sランクと見た目のいいやつだけでも連れていけ。」
逃走用の馬車に馬を積み込んでいるようだ。
もうこれ以上連れていかれるわけにはいかない。
手綱を持つ青年を引き剝がし、馬群をかき分ける。
捕まえようとするやつは容赦なく頭の小さい角で突き飛ばす。
生えたてのまだ先の白い角。水たまりに見た当歳馬はそれが何よりも嬉しいようだった。
今は小突き道具だが。
なんとか馬混みを抜け、通路の隅に逃げ込んだ。
と、投げ輪をもった性悪二人組の一人がやってきた。
「見た目のいいやつ…。こいつは太ってんな。他に見た目のいいやつはっと。」
一難は去った。
だか仔馬の心は擦り切れていた。
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