闇オークション
「なあ。アシュをどうするんだ。まさか見捨てるのか。」
「そんなわけないやろ。人質なんかに、されてたまるか。」
こぶしが小刻みに震える。
「ボス…。出頭しましょう。」
「えっ…。」「どういうつもりっすか、ヒューズさん。」
「ああ、そうだ。そうするしかない。」
「兄さんまで」
「あいつらは、俺らの手に負えん。」
ー・ー・ー
はー。一体どれくらい経ったんだろう。
薄暗い部屋の中、食事と睡眠しかしていないと私の自慢の腹時計も狂い始める。
そして何より、掃除をして欲しい。
私のはまだ新しいが、特に隣のマッチョの敷き草が臭うのだ。しかも、その暴れん坊将軍は少し気に入らないことがあると草を蹴り上げてくる。
そう言えば、左の部屋に住人が出来た。
全身毛がフサフサで顔もよく見えない。
話によるとこの子は北大陸の野生馬らしい。その馬の住む高山帯は寒さが特に厳しく、密猟者も生きて帰るのがやっと。入手困難で希少価値も高い。
そんなものを仕入れるとはこの組織は一体どれくらいの規模なんだ。
丸っこくてとってもかわいいんだけど。
クンクン…ペロン、ペロン。
なんかめっちゃ懐いてるんですが。
というか、お主は犬か。
おかげで、右に行けば草まみれ、左に行けば唾まみれという有り様。私はとうとう居場所を失ったか。
お願い誰かここから出して下さい。あとブラッシングも…。
「ヘッ、ヘッ、ヘッ。クーン。」
毛づくろいはお任せあれっという事ですか。
すごい毛量だもんね、あなた。
「あーあ。何で獣の世話なんかしねーといけねんだ。」「くせーし、うるせーし。っざけんな。」
いつもの2人組だ。餌やりも適当で飲み水に限っては馬にかかる勢いで注ぐから、ほとんど桶に残らない。
動物愛護を微塵も感じない言動にこっちも頭にきていた。あいつらに一泡吹かせて、一発スカッとしたいぐらいだ。
「今日はクソ掃除とブラッシングか。だりー。」
「おい、アイツにやらせるのはどうだ。」
「おいおい、一応は商品になるんだぞ。」
「どうせ奴隷行きだろ。同じことさ。」
やっと部屋を掃除してもらえる。その喜びでいっぱいだった。
「おい、さっさと来い。異民女。」
柵の間に見えた、あの特徴的な衣装、頭に巻かれたターバン。間違いない、アシュだ。
どうしてここに。商品、奴隷、どういうことだ。
「この列全部の草を替えろ。」
男は道具をアシュに投げつけ、柵に蹴り飛ばした。
「まずはそこからだ。」
気味の悪い笑みが見える。
最低の野郎だ。
しかも、そいつらが指した部屋って、右隣のあの草かけ暴れ馬だ。
なんと卑劣な。アシュのようなか弱い女の子に怪我でもさせる気か。って思ってたんだけど。
「ヒヒーン。ヒッ…ヒーン。」
えっ。
「おい…。おい、どうなってんだ。」
「お前…。」
今、起こった事を話そう。まずアシュが檻を開け、怒った馬が立ち上がった。それを素手で止めて…、ロープで縛りあげて…、馬房の外に放り出した。 一瞬の出来事だった。
その場にいた全員(馬も含め)愕然としていた。
「チッ。」「残りも全部やっとけよ。」
くーっ。アシュちゃんナイス。二人は相当罰が悪かったことだろう。
にしても、アシュって何者なんだ。
その後、彼女は手際よく仕事を済ませ、私の部屋もすっかりきれいになった。
だがあの忌々しいやつは追加でブラッシングまで言いつけた。
しかし、なぜか彼女は嫌がる素振りは見せなかった。
「あなた達はこれから売られてしまうのね。」
全身鎧の皮膚が点在していて、ブラシはかけづらいだろうに。
私をなでる手はとても優しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます