脱獄記

ガシャン…。

かんぬきがかけられ、私は3畳ほどの房に監禁された。

ほー。人間様にかんぬきが通用すると。

人がいないのを見計らって、よし。

ガコン。キーッ。

「あっ。」

(あっ。)

(失礼しまーす。)


ガシャン。


くっ、なぜだ。なぜばれた。

私の檻には加えて鍵がかけられてしまった。

仕方ない。まずは現状確認だ。


この監獄は地下にある。人目につかないし、馬も簡単には逃げ出せない。一石二鳥だ。

だが、馬にとっては最悪な環境だ。

風通しは悪く、冷たい石床には気持ち程度の敷藁。

空間中に充満する獣の排泄物の匂い。

更に奥から掠れたいななきが聞こえた。

ここはお世辞にも家畜を飼う場所ではなかった。


本能も、理性も早くここから出ろと言っている。

でもなー。岩の壁を掘り進めたり、金属の柵をぶち抜いたり。そんな能力私にはない。

仮に試したとして、途中で発見されてしまったら、更に警戒されて元も子もない本末転倒になるだろう。

脳内討論を行った末、今はおとなしくするのが妥当だという結果になった。

長旅の療養も兼ね、ひと眠りするとしますか。


いつもはヘソ天だけど、なにせ石畳が冷たいので立って寝た。


体感10分もしないうちに、牢の小窓が閉まる音で目が覚めた。

木樽のなかに入っているのは食べ物らしい。隣の桶には水が満たされていた。

これこそを差し入れと呼ぶのだろう。


おばちゃんの新鮮レタスには敵わないが、味は悪くない。麦と豆、謎の野菜の配合飼料と見た。

餌はしっかりしているのは意外だった。


満腹になったので、床の草をかき集め、その上で丸まった。

トマト、食べたかったなー。


ー・-・-


「おい。どういうことや。アシュをどないするつもりやねん。」

「ですから、あなた方にはこれからも長いお付き合いを。」

男は判を押す手をやめない。

「やからって。見張りがおらんくてどうしろってんだ。」

「残り4名様がいらっしゃるではありませんか。」


「お前…。」

「ボス、やめてください。」「ここで手をあげたらどうなると思ってるんすか。」

事務机に乗り上げようとしたボスを仲間が必死で取り押さえる。


「こちら、今回の依頼料です。」

机に重い巾着が置かれる。

それを無言で掴み取ると、雇われの盗人たちは歯を食いしばりながら部屋を出て行った。


ー・-・-

壁に二つ目の正の字が出来始めた頃。

私は仮釈放された。身体検査が行われのだ。私をオークションに出品するために。


「こいつのスキルは爆走か。物好きが買ってくれるだろう。Aランクだ。」


検査後、私は手綱を引かれ別の馬房に移された。

道中、私は驚くべき光景を目にする。


ずらりと左右に並んだ檻の数々。中には同じく攫われたと思われる仔馬たちがいた。

しかも、檻ごとに序列がついていた。

私がもともといたのは入り口に一番近いEランクの檻。そこから奥に進むにつれ、ランクは上がる。


特に驚いたのは、その馬の種類の多さだ。

たてがみがシルクのように美しいものから、トゲになっているもの。体表が魚のような鱗で覆われているもの。大きさもポニーから象レベルまで。


ここまで取り揃えるとは。

盗賊団を雇い、良血馬の仔馬を狙う謎の組織。 

やるな。だが、仔馬の中には競走馬には向かない体型の子も多い。どちらかといえば観賞用とも言えそうな美しい子もいる。こんなにたくさんの種がこの辺りに住んでいるものか。


色々な疑問が残るなか、とうとう目的地に到着した。


今度は広々として、快適とまではいかないが、良くは過ごせそうだ。

にしても柵越しにすごく視線を感じるんだけど…。


ブルルル…。鼻を鳴らしてる。

(お隣失礼しますね。しばらくお世話になります。)

私は口をパクパクとさせた。


馬界にも礼儀は存在する。

今行ったのはスナッピングと呼ばれる、仔馬が大人の馬に従う意思を示すもの。

右の檻にいる巨漢はまだ子供だろうが、私のそれを見て満足したらしく、以降ちょっかいをかけてくることはなかった。


左は空室のようだったので、念のためそちら側で眠ることにした。

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