診断

ついにその時が来た。

「メープルちゃんがんばって!」

ミアに背中を押され、狭い部屋に入る。


「よーし、暴れるなよ。首抑えてくれ。」

「わかりました。」

中には獣医とその助手とみられる二人がいて、

私は助手らしき一人に顔を持ち上げられた。

一体何がはじまるのやら。

「行くぞ、せーの。」

(ブスッ…)

(ヒイイーン!)

首筋に針を刺されたらしい。思わず、後ろ脚をじたばたさせる。

「よし。」

獣医は私から抜き取った血を見て微笑んでいる。こわい。

採血するために皮の薄い顎下に針を刺したらしい。

「案外おとなしいですね。」

「そうだな。こいつを連れて行って、あの親子に結果は明日だと伝えといてくれ。」

「はい。」

助手に手綱を引かれ、とぼとぼと歩く。

きれいな廊下。動物病院といったところか。


この世界は思った以上に発展しているらしい。

見慣れない街並みだが、道は舗装され、人々は簡素だが整った身なりをしているし、生活水準はかなり高い。電気はないと思われ、電柱らしきものは見当たらなかった。

魔法を使っているのか物があちらこちらで浮いてるのには驚いた。


ここまでは箱に入れられて、運ばれてきた。

トラックのような乗り物には乗せられず、なんだか浮いているような気がした。

あの箱は魔道具みたいなものか。


「メープルちゃん!かえってきた!」

私を見るなりミアは両手を広げて走ってきた。

「いたかったでしょう?、えらいえらい!」

そして、頭をなでてくれた。

「検査結果は明日になります。また来てください。」


帰り、また箱に入ってくつろいでいると、

「ミア、歩くのつかれた。メープルとのっていい?」

「ああ。」

天井が開き、ミアが飛び込んできた。

(ドスッ。)

高さはさほどなかったが、小さい割にはきれいな着地を見せた。

そして、隣に寝そべって、私の背中をなではじめた。


「よっ、ゲルタ。」

「おお~久しぶり。」

「これが新しく生まれたヨセフーリアの仔か?」


板の隙間からパパとおっさんが話してるのが見えた。

こっちを指さして、どうやら私の事を言っているらしい。


「そうだ。検診に行ってきたんだ。」

「ほほ~そうか、良いスキルもらってるといいがな。」

「なかなかの値段だったからな。奮発したよ。」

「でも、これで勝てなかったらお前どうすんだよ。この仔が最後の望みだろ。」

パパは少しうつむいて、私の方を向いたので、覗くのをやめた。


私は大きな淡い期待を持たれて生まれたらしい。

思えば、馬房にはほとんど馬はおらず、代わりに牛が入れられていた。

餌をやるためであろう機械もほこりをかぶり、ボロボロの柵、穴の空いた桶。

この家は決して裕福には見えなかった。

だが、いくつかの馬房にかけられたプレートには読めない文字で名前、血統、勝った賞が書かれていた。

今は牛だが、かつては優秀な競走馬がいたのだ。


こうなっては、必ず私は競走馬にならなくてはならない。

そして、パパ、ミアのためも走らなくてはならない。覚悟は決まった。

すやすやと寝息を立て始めたミアの顔を見つめた。

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