前夜
馬房に帰ってからも興奮が覚めなかった。
いつもなら横になったらすぐに眠りにつくのに。
ミアはパパのお許しがでてから、毎晩馬房にやってきて、私を寝かしつけに来てくれる。
頭を撫で、ほおずりして、“おやすみなさい、メープル”って…
毎回、心臓に悪い。嬉しすぎて眠くなるどころじゃない。
でも確かに落ち着く。すぐに寝られる。
前の世界じゃ1時以降はザラだったから、今のノンレム睡眠生活はまるで天国のようだ。
ミアは今日も私が目を瞑ったのを見届けて、帰っていった。
マリアナはというと、私と同じく脚をたたんで、頭をコックリ、コックリさせていた。
何だか、母に甘えたくなった。
お母さん、元気にしてるかな。
いつも勉強に厳しかった母。うっとうしいなって思っていた。絶賛反抗期で、ずっと口を聞いていなかった。私には母の一人娘を失った悲しみは計り知れない。実際、自分が愛されているかなんて考えたこともなかった。
ありがとうって言えなかったなぁ…。
どうしようもない思いが込み上げてくる。
この身体じゃすぐには涙はでない。
起き上がり、マリアナに寄りかかるようにして座る。
母は首を起こし、目を閉じたまま私の顔を舐めた。そしてまた、首が取れそうなくらい船を漕ぎ始めた。
今私にはマリアナという母がいる。
言葉は通じないし、私を舐めたのも本能的な愛情かもしれない。でも、確かに今、母の温もりを感じた。
ー・ー・ー・ー翌日
「いーやーだ!」
いつもニコニコのミアの顔が暗い。
「メープルについて行くんだろ。」
「いーやー。」
どうやら今日はご機嫌斜めらしい。
「いーきたくなーい。」
「昨日あれだけ楽しみって言っとったのに。」
「いーやー。」
パパの言葉も耳に入らない様子だ。
とうとう地面に座り込んで、泣きじゃくってしまった。
幼い子を1人にさせる訳にもいかず、
パパは何とか説得しようとするも焼け石に水。
仕方なく、ミアは近所のおばさんに預けられた。
私が例の箱に入れられるとき、
遠巻きに窓のはしから眺めるミアと目が合った。
唇を噛んで,涙を堪えていた。小さい肩がまだ震えている。
それを見ていられなくて、黙って例の運搬箱に入れられた。
病院までは長い。
でもパパは終始無言だった。
病院に着き、箱が開かれたとき、
パパは不安そうに私を見つめた。
ああ、そうだ。
これから私の将来が決まる。
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