転生先

(うぅ…)

意識が戻ってきたと思うと、

何やら、身体が濡れているようだ。


ぼーっとしていると急に頭をわしゃわしゃと擦られた。

(うん?)

目を開けてみる。

茶色以外何も見えない。


(へぇ?)

(うわっ)

パッと視界が開けたと思うと、目の前にはボロ切れを持った女の子がいた。


「はじめましておうまさんのあかちゃん。

わたしはミアよ、よろしくね!」


(かっかっかわいい…) (おうまさん?)

ミアと言った女の子は緑色の短い髪をおさげに結わえ、顔いっぱいの笑顔を見せていた。 


ミアは顔が終わると今度は後ろに回って、背中を拭こうとした。私も後ろを振り向いてみると、視界に黒いものが…

(何あれ!?)


明らかに地球にはいない生物。角ありウロコ?あり、危なっかしいオーラあり。

(竜!!)


いやいや、興奮してる場合じゃない。まじでやばい、食べられるぅ!

(ってあれ?)


そいつはペロンペロンと優しく私の背中を舐め始めた。


「ちょっとマリアナ、ミアがふいてあげるんだから。」


(あへぇ?)

舐められているは私、って私!?自身の背中と思われるものはゴツゴツしていて、明らかに人間のものではない。

(ということは…)


(異世界転生したってこと!!しかも、馬?として!)


そうなると、あの竜はこの世界のウマで、私はそのマリアナの子供ということか。


よく見るとマリアナ(母)の身体には馬の面影があった。

わかりやすく言うとペガサス+ドラゴンみたいな感じだ。

まずは何より、願いが叶ったことを喜ぼう。


ワーイワーイ!

いつのまにかミアはどこかへ行ってしまっていた。

あれっ、急に眠気が…




「あら、なかなかたたないわね。おうまさんたてる?」

ミアの声で目が覚めた。


あっ、すっかり忘れていた。生まれた仔馬は天敵からすぐ逃げられるよう、1時間ほどで立ち上がるのだ。


「もしかして、あしがわるいのかな?

パパをよんでくるから、ちょっとまっててね。」


そう言ってミアは駆け出していってしまった。



(ヨイショ)

折りたたんでいた前脚を伸ばしてみる。馬だからもちろん蹄だ。指が1本しかないから、すごく不思議な感覚だ。


でも、本能みたいなもので少しすると馴染んできた。


次は後ろ足、人の時と違って太ももは短く、踵から爪先が長い。前脚はなんとか踏ん張れたが、後脚はなかなか感覚が掴めない。伸ばそうにも力が入らない。


(ヨイショ)(コラショ)(ドッコイセ)

何とか身体は起こせたが、脚を踏み出す勇気が出ない。


そうしてグズグズしているうちに、ミアと大人の足音が聞こえてきた。

(やばい)

焦って立ち上がろうとすると、前脚から崩れ落ちてしまった。


「あぁ、おうまさん!」


ちょうどその時ミアが来てしまった。


ミアは私に駆け寄って、心配そうに見つめている。


「本当だ。脚の筋肉が弱いのかもしれんな。」


ミアに続いて彼女のパパらしき男の人が立っていた。

私はまた挑戦してみたが、同じだった。

「しかし、立たないことには母乳が飲めないしな。」


「おうまさん、だいじょうぶ?」

「そうだな、牛の乳でも飲ませるか。」

そう言ってミアのパパはどこかへ行ってしまった。


残ったミアは私の背中を撫で始めた。


「おうまさん、だいじょうぶだよ。

ミア、おうえんしてるよ。がんばって。」


幼稚園ぐらいの女の子が中身16の私を気遣ってくれるだなんて、嬉しくて涙がでそうだ。

お礼の代わりに尾を振ってみたら、かわいいしっぽねと笑ってくれた。


私はますます嬉しくなって、今度こそはともう一度脚に力をいれた。


「わぁっ!」


ミアは慌てて手を離した。

そして…


「やったぁ!おうまさんすごい!」

(やったぁ!立てた。)


ふらついているがちゃんと4本脚で身体を支えられている。

そして、おぼつかない足取りでミアの周りをぐるぐる回り始めた。


「ふふっ、おうまさんっておもしろいのね。」


ミアが馬房のなかを移動するのでそれについていっていると、


「おう、立ったのか、なんだ楽しそうじゃないか。」


パパも馬房に入ってきた。


「この子ずっと私についてくるの。」


「かわいいな。」

「じぁあ、大丈夫そうだな。もう、母乳は飲んだのか。」


あっ、すっかり忘れていた。


「まだよ。」

「ミア、仔馬をマリアナに近づけやれ。」


するとミアは私に手招きして、母馬のそばに立った。


今さら、乳飲み子とは恥ずかしいし、しかも馬の!と思うと気が引けるが、今の私は生まれたての仔馬。生きるためには仕方がない。できれば拒否したいのだが…


これ以上ミアに悲しい顔をして欲しくない。

私は覚悟を決めた。


「よし、もう大丈夫だな。ミア、一旦帰ろう。しばらくそっとしてやろう。」

「はーい。」

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