お~イ! 全1話

お~イ!

「おい オイッ」


 パソコンから顔を上げて声がする方を見た。さっき閉めたはずのクローゼットが開いている。


 クローゼットの折れ戸を閉め直してレポートに集中する。明日が提出期限なんだ。


「オーい おイ オイっ」


 また声が聞こえて折れ戸が開く気配がした。無視だ、無視。集中。




 次の日の夕方。


 友達が泊まりに来た。缶ビールを飲みながらゲームしていると、またクローゼットがひとりでに開いた。


「おいッ オイ!」


 友達はゲームを中断してクローゼットの方に顔を向けた。


「隣の人?」

「いや、隣誰もいないよ。何か知らんけどずっと空いてんだよね。前に誰か越してきたっぽいけど、ひと月したらまた空室に戻った」

「ふーん。マンションって、音反響するらしいからな。上の階の音が響いて来るのかね」

 友達はコントローラーを構え直した。


「おい オイオイおい」

 またクローゼットから声が聞こえてきた。


「おイ オ~い オイ おぃ ォイ オイ オイオイ おい!」

「うるせえよ!!」

 友達の怒声がマンションの壁を震わせた。


「オイ オイって、何だよさっきから! 全然集中できねえな!」


「きコえた?」

 クローゼットの中から出てきた皺だらけの手が引き戸を掴むのが見えた。

「きこえたキコえタキこエたキコエタきコえタキこえタきこエタキコえた」




 目が覚めると朝だった。友達はいつの間にか帰ったらしく、部屋には俺しかいなかった。何だか酷い夢を見た気がする。引っ越そうかな。


「お~イ!」


 クローゼットから友達の声が聞こえた。

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