断ち切れない 全1話

断ち切れない

 生まれたばかりの長男がずっと泣き止まない。心配して病院につれていくと、先生が長男の指に異変を見つけた。


「ほらここ、わかりますか?」


 小さな足の指に髪の毛が巻き付いて腫れていた。ヘアターニケット症候群というらしい。この巻き付いた黒髪のせいで、指にうまく血が回らなくなっていたんだって。怖いなぁ。早く発見できてよかった……。


「可能な範囲で床や寝具のお掃除をしていただいたり、ご家族に髪の長い方がいらっしゃったら、添い寝していただく時は髪を結んでもらうと良いかもしれません」


 先生は私の髪を見ながら、

「もしご家族の協力が得られないようでしたら、私からもお話しますので、ご連絡ください」

 とおっしゃった。


 私の髪は茶色で短い。息子を傷つけた髪は私以外の誰かのものだ。



 家は新築。夫と私と長男の三人暮らし。母やお義母さんの手は借りているものの、二人とも髪は黒くない。


 ——あれは誰の髪の毛なんだろう。


 不安を感じながらも部屋の掃除をする。フローリングの床を拭くと、埃に混ざって黒くて長い髪がごっそりとれた。


 ——この家に知らない誰かが上がり込んだんだ。


 夫を疑いたくはないけど、不安はある。結婚する前も今もあの人はモテるんだ。

 私の友達も彼に思いを寄せていた。でも私は知らないふりをして彼女に私と彼がくっつけるよう手助けを頼んだ。


 彼女の髪は黒くて長かった。


 ——確かめなきゃ。


 まずはSNSを開く。夫との関係の匂わせはないか。


 彼女の投稿を見て絶句した。


 彼女は髪を切り落としていた。肩に届くか届かないかくらいのショートカット。添えられた一言は「髪と一緒に未練を断ち切りました」って。


 視線を夫に向けた。ソファに座る彼の足に、黒い髪が纏わり付いていた。

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