天井のシミ 全1話

天井のシミ

 久しぶりに会った友達は、何だかやつれているように見えた。


 訳を聞けば、

「最近嫌な事に気付いちゃってさ」

 と、前置きして理由を教えてくれた。


 彼女の悩みは、今住んでいる部屋の事らしい。都心にあって駅からも近いのに、びっくりするほど安い物件だったそうだ。


 当然、事故物件じゃないかと疑ったものの、不動産には否定され、事故物件の紹介サイトにも載っていなかったらしい。だから思い切って部屋を借りてみることにしたそうだ。


「でも、一つだけ気になる場所があってさ……」


 引っ越したあと、天井が一部、黒っぽくなっているのを見つけた。部屋を見ている時は特に気に留めなかったけど、借りてからやたらと気になるようになってしまったらしい。


 それ以外は何もなく、何が起ることもなく半年が過ぎた。


 そして、これは今から一週間前の話。


 深夜に目が覚めた彼女は、真っ暗な部屋の中で何かが動くのを見た。それは、着物を着た女性だった。彼女の身長はありえないほど高く、窓の方に反り返るようにして天井に手をあて、ぱたぱたと叩いていたらしい。


 友達は気付いたらコンビニに駆け込んでいて、朝まで適当に時間を潰して日が完全に昇ってからおそるおそる家に帰ったそうだ。


「朝になったら消えてたの。もしかしたら、私が気づかなかっただけで、半年間ずっと出てきてたのかもね……。幽霊か何か知らないけど、そいつが叩いてたところ、ちょうどあの天井の黒い部分なんだよ」


 力なく笑う友達。私は背筋がゾッとするのを感じながら、「引っ越した?」と聞いてみた。


「そうしたいんだけど、あのマンションの立地凄くいいし、深夜に天井を叩く以外は何もしないから、もうちょっと様子をみようかと思って」


 彼女は意外と胆力があると思った。それに触発されたのか、私もその幽霊について冷静に考える事ができた。


「もしかして、その上に何かあるんじゃない? 幽霊なら、理由もなく出てきたりしないと思うし」


 私の考えを聞いた友達は、さっそく大家さんに相談して天井裏を見てもらうことにしたらしい。


 数日後、彼女から連絡がきた。


「天井裏に錆びた箱が置かれてたんだよ。いつ誰が何の為に置いたかわからなくて、大家さんも難しい顔してたよ」


「中身は何だったの?」


「わかんない。箱は開けずに然るべきお寺にお願いしてきた。でも、これで今夜からゆっくり寝られる~」



 その翌日、彼女は引っ越した。


「なんかね、まだそこにいたのよ。天井を叩く音も、前よりうるさくなっちゃってさ。もう考えるのも面倒臭くなって引っ越しちゃった」

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