第65話 彼女は彼と仲直りができたから

 無事美桜との話も一段落し、養護教諭から美桜が起きれば帰っていいと言われていたこともあり、二人は学校を後にした。

 自然に車道側を美桜の歩幅に合わせて歩く蓮。美桜はその隣を一緒に歩くだけでなんだか嬉しくなってしまう。

 そうして駅に向かう途中、美桜が切り出した。

「ねえ、蓮くん」

「どうした?」

「昼休みのこと、蓮くんじゃない、ってことは誰か他の人が考えてやったってことだよね?」

「……そうなる、な」

 美桜からその話をするのなら、蓮に拒否することはできない。ただこの話題はしていいものなのか蓮は迷っていた。そこをはっきりさせることが美桜にとっていいことなのかどうか蓮には判断できなかったから。

「そうだよね……。ねえ、蓮くん。少しだけ話聞いてくれる?」

「?もちろん」

「私ね、実は中学のときにも同じこと、されたことがあるの」

 だが、美桜が続けたのは過去の話だった。

「っ、うん……」

「もしかして知ってた?」

「…悪い、杏里から聞いた」

「今私から話してるんだし謝ることなんてないよ。……私ね、告白されたとき正直ドキッとしたんだ。遊んでそうな見た目で、よく知らない人だったし、付き合いたいとかそういうのはなかったんだけどね。こんな私に好意を持ってくれる人がいるんだって。でもそれは、嘘で、私の返答を賭けにしてたの」

 美桜にとっては未だ慣れないことだが、一生懸命自分のことを蓮に話す。蓮の聞き上手っぷりが美桜を後押ししているのかもしれない。

「うん……」

「本当に辛くて、いっぱい傷ついて、今でもあのときの光景を憶えてる。それから男子がすごく苦手になって。元々人付き合いとか苦手だったのもあって、友達もいなかったからずっと誰とも関わらないようにしてきたの」

「そっか……」

「蓮くんのことも私、最初の頃、ずっと邪険にしちゃってたよね。酷いこともいっぱい言ったと思う。本当にごめんなさい。それでも今こうして一緒にいてくれてありがとう」

「いや、そんなことがあれば当然だし、美桜に酷いことを言われたなんて俺は思ったことないな」

「ありがとう。そんな私が杏里達とも仲良くなれて、私ね、今すごく楽しいの」

「そっか、よかったな。けどそれは美桜が、人付き合いが苦手だとしても、仲良くなろうと頑張ったからだと思うよ」

「ふふっ、ありがと」

 蓮の言い方に思わず美桜は笑ってしまう。自分の中では確かに頑張ったと思う。そう、あくまで自分の中では、だ。でもそれを蓮はすごく自然に認めてくれる。

「あ、話が逸れちゃったね。そんな中でね、水波君は家が近所で、幼馴染っていうのかな。一緒に登校したり、お互いの家に遊びに行ったりしてて、私のずっと近くにいた」

「うん……」

 話が昇のことになった。

「仲がいいっていうのとは少し違っててね。彼は自分の話をすることが多くて、それを私は全然理解できなくて、いつも相づちくらいしかできなかった。私が自分の話をすることなんてまずなかったの。蓮くん達といるときとは違ってね。そんな相手といてもつまらないと思うの。それなのにどうして一緒にいるのかずっと不思議だった。けど私の母さんとは話が合うみたいで、すごく仲がいいんだ」

「それは、なんて言うか、少ししんどそうだな」

「うん。ちょっと、ね。居心地はよくなかったかな。そんな彼がね、中学のとき、嘘の告白をされたこと、すごく聞いてきたの。何度も、何があったのか、って。そのときは私が落ち込んでるから気になったのかと思ってた。……けど、少し前にね、ちょっと言い合いになって、突然そのときのこと言われて、彼、賭けのこと、知ってたの。私は彼に言ったことはないし、やってた人達も言い触らされたくないから、そういう相手を選んでるんだって勝手なこと言ってた。だから知ってるはずがないの。……もしかしたら何か関わってたのかもしれない」

「そう、だったのか……」

「……今回のこと、水波君が考えたのかな?」

 美桜もやはりと言うか、その結論に行きついた。

「っ、…その可能性が高いんじゃないかとは思う」

 少なくとも昇と美桜は近しい距離であったことは間違いなかった。この話はそんな二人の関係を完全に壊してしまうかもしれない。美桜はそれでいいのだろうか。

「そうだよね。蓮くんにあんな嘘を言ってたくらいだもんね。……どうして彼はそんなことばかりするんだろう?」

 美桜の言い方は、昇がした前提での話になってしまっているが、それは蓮も疑問に思っていたことだ。

「わからない。……けど……」

「けど?」

「全然確証がある訳じゃないし、理由になってないとも思うんだけど、屋上で俺に言ったことを考えると、水波は美桜のこと、その、好き…、なんじゃないかって思った」

 自分が感じたことを口にしたのだが、蓮はとても言いにくそうだ。

「え!?」

 美桜は驚きの声を上げてしまう。そんな風に考えたことなんてなかったから。それに蓮の口から他の人が自分を好きだなんて聞きたくなかったというか、自分でもおかしいって思うけど、胸の辺りがぎゅっと苦しくなった。

「あ、いや、本当そう感じたってだけなんだけどさ。ごめん、変なこと言って」

 蓮がそう感じたと言うのだ。美桜はそれを聞き流すことはできない。

「……もし、蓮くんの言う通りだとして、私にはわからないよ。だってそれが私や蓮くんに酷いことする理由にはならないでしょう?」

「まあ、普通に考えたらそうなんだよな」

 蓮にもそれがわからなかった。好きならその相手に好まれるようにするはずなのに、昇のしていることは真逆に思えてならない。


 そんな話をしていたらあっという間に駅に着いた。

 そのまま二人は電車に乗る。

「美桜は仮に今回のこと水波がしたとして、どうするつもりとか考えがあるのか?怪しくはあっても証拠なんて何もないけど」

「考えっていうか、決めたことはあるの」

「そうなのか?」

「うん。……蓮くんと仲直りできたから」

「俺?」

「そうだよ。私、今はすごく強い気持ちでいられてる、ってそう思うの」

 美桜はそう言って嬉しそうに微笑む。

「そっか。よかった、って言っていいのかな。俺の方こそ、許してくれてありがとう、美桜」

 美桜にとって自分との仲直りがそれほど影響しているということに、それまで美桜が味わった辛さに対して申し訳ない気持ちと何とも言えない温かい気持ちが同時に湧いてきて、蓮も小さく笑った。


 美桜の最寄り駅で二人は降りた。

「今日は色々あったけど、明日からまたよろしくな」

「うん、こちらこそ」

「球技大会、美桜の期待に応えられるかわからないけど、頑張るから」

「うん、楽しみにしてる。一生懸命応援するね」

「ありがとう。俺も美桜の応援行くから」

「ありがとう。私も頑張る」

 何もおかしな話をした訳ではないが、何となく二人は笑ってしまった。

「それじゃあ、また明日、な」

「うん、また、ね」

 二人が別れようとしたそのときだった。

「美桜!天川なんかと何してるんだ!?」

 驚き、声のした方を見ると、そこには怒りで表情を歪ませた昇が二人のすぐ近くに立っていた。


 ―――――あとがき――――――

 こんばんは。柚希乃集です。

 読者の皆様、いつも応援くださりありがとうございます!

 寒暖差が激しいせいか、体調を崩してしまい、昨日は投稿できませんでした(>_<)

 皆様も体調にはお気をつけくださいませm(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る