第47話 中間テストは無事終わり

 それからも四人は順調に勉強会を重ねたのだが、実は蓮と美桜が電話をした翌日、勉強会の休憩中に蓮から提案があった。

「なあ、華賀さん。そろそろ俺達にも丁寧な言葉はやめないか?」

「え?」

「ああ、いや悪い訳じゃないんだけどさ。杏里達とはタメ語で話してるんだろ?」

「あ~、それは私も思ってたかも」

「杏里まで」

「特に問題はないと思うんだけど」

「確かになぁ」

 柊平まで加わってきた。

「それは、そうなんですけど……」

 蓮が急にこんな話をし始めた理由を美桜は明確に理解していた。昨日の自分が原因だろうからだ。ずっと丁寧語で話していたのに、どうしてあのときだけ崩れてしまったのか。続け様に謝ってしまったのが失敗だったのだろうか。忘れてくれていればよかったのに、蓮はばっちり憶えていたようで、そのことが嬉しいやら困るやら、だ。今更話し方を変えることに何とも言えない恥ずかしさを覚えてしまう。

「嫌なら無理にとは言わないけどさ」

 表情に包み込むような優しさを滲ませて蓮が言う。

「嫌じゃない、……」

 顔を見られたくないのか、俯き気味にか細い声で言う美桜。

「ん?」

 だが、次の瞬間、蓮からお咎めが入ってしまった。しかも意地の悪そうな表情付きだ。

「っ、……嫌じゃない、よ?」

「はは、ごめんごめん。もう無理強いはしないから。けど、うん、そっちの方がいいかな」

「ううぅ……」

(天川君は意地悪だ……)

 美桜は恥ずかしさから縮こまってしまいぷるぷる震えている。

「美桜が可愛い!小動物みたいになっちゃってるよ~」

 そんな美桜を見て瞳をキラキラさせた杏里が美桜に抱きつくのだった。


 勉強会が順調な一方、美桜と志保の間でもう一度話し合われることはなかった。美桜から再度話そうとしたが、今はテストに集中しなさい、と志保が取り合わなかったのだ。そのことに美桜は不思議に思いながらも言われたことは尤もなため、一応納得した。


 そして今日。

 チャイムが鳴り、教師が一番後ろの席の生徒に解答用紙の回収を告げる。そして解答用紙を揃えた教師は教室を出て行った。

 中間テスト最終日、その最後の教科が終わったところだ。

「終わったぁ~」

 杏里が身体の力を抜き机に突っ伏す。

「杏里、今回は大丈夫そうなの?」

 左隣の席に座る雪乃が言う。

「たぶ~んね~」

「今回も天川と日下に勉強見てもらってたんでしょ?あんた、天川達にもう頭上がんないね」

「そ~だね~」

「あんたってひとは……」

 だらけきった態度で自分のことなのにいい加減な返事をする杏里に雪乃はジト目を向け隠すこともなくため息を吐くのだった。


 それからすぐに担任がやってきて帰りのホームルームが始まった。連絡事項として来週から個人面談を始めることが担任から告げられる。今日はそれだけのようで、最後にテストを終えた生徒達を労い、すぐにホームルームは終わり、クラス全体が解放感に包まれた。

 その後、杏里は蓮達のもとに行った。

「美桜、蓮、柊平お疲れ~」

 杏里が言うと三人からも同じように返される。

「蓮のノートのおかげで今回は大丈夫そうな気がするよ」

 今回のテストの手応えについて嬉しそうに話す杏里。

「それはなにより。頑張ったな、杏里」

「えへへ、ありがと、蓮」

「私も今までよりできた気がしま…、するよ。ありがとう天川君、日下君」

 まだ慣れないのか時々こうして言い直すことがある美桜。

「くくっ、どういたしまして。二人とも頑張ってたからな」

 そんなとき、いつも蓮は堪えきれないというように笑ってくる。それがすごく恥ずかしくてつい恨みがましい目を向けてしまう。

「だな。蓮は場所を提供してくれたけど、俺は今回本当に特に何もしてないし」

「ううん。集中してできたし、やっぱりすぐ訊ける人がいるってすごく心強かったから」

「だよね!」

 皆でテストが終わった解放感を存分に味わう。今回も蓮が自作したノートを頑張って暗記した杏里はずっと笑顔だ。ただこのやり方は実際のところ、蓮の負担がかなり大きいため、もしかしたら蓮の成績は少し下がっているかもしれない。それでも蓮は大変さを微塵も感じさせないため、疲労が溜まっていることを誰にも悟らせなかった。


 昼過ぎに下校となる今日はこの後、テストの打ち上げで杏里、美桜、雪乃、詩音の四人でパフェを食べに行く予定だ。

 ちなみに雪乃は大会を無事勝ち進み、次のステージに行くことができた。その大会は来月にあるため、引退はまだ少し先になる。

 教室で蓮と柊平に別れを告げ、杏里と美桜は雪乃、詩音と一緒にパフェが美味しいと有名なカフェに向かった。店内は女性客が多かったが、時間帯もあってかすぐに座ることができた。

 皆で楽しそうにメニューを見て、杏里がいちご尽くしパフェ、美桜が旬のフルーツ(びわ)のパフェ、雪乃がチョコまみれのチョコレートパフェ、詩音が濃厚抹茶の和風パフェと各々好みのパフェを注文した。

 テーブルに運ばれてきたパフェをスマホで撮影してから食べ始める。美桜はそういうことに慣れていなかったが、皆がしているので自分も真似てみた。いざ撮ってみると思い出にも残るということですごく嬉しそうに口元を綻ばせるのだった。


 そうしてパフェを口に入れた瞬間、それぞれがそれぞれの反応を示し、味を堪能する。頬に手を添え目を瞑ったり、目を瞑りながら、ん~~と声に出したり、微笑みを浮かべたり、おいしいと呟いたりとその仕草には個性が出ていた。

 それからも皆で和気あいあいとお喋りしながら美味しくいただいていく。

 パフェを食べ終えた四人は飲み物を注文した。まだまだお喋りタイムのようだ。

「杏里と美桜って毎日天川の家行って、日下と四人で勉強してたんだよね?」

 それは雪乃の言葉から始まった。

「そうだよ~」

「うん」

「二人ってさ、どっちかと付き合ってたりするの?」

「そうなの?」

 詩音が目を大きくする。

「いやいやいや、なんでいきなりそんな話になるの!?」

「雪乃!?いきなり何言って……」

 二人から慌てたように言葉が返ってくる。

「あたし的には変なことを言ったつもりはないんだけどね」

 雪乃にとっては二人を見ていて感じた素朴な疑問だった。

「そんなんじゃないよ」

「うん、そうだよ」

「けどさ、杏里は二人と一年のときからの付き合いなんだよね?美桜にとってもあの二人は他の男子とは違うのかなって思ったんだけど?」

「「それはそうだけど……」」

 杏里と美桜の言葉が見事に重なった。互いに相手を見やり、思わず笑ってしまう。

 ただ、二人の慌てた様子や少し頬を赤らめているのを雪乃も詩音もテーブルを挟んだ正面からばっちり見ていた。

 二人の反応に少なくとも今はまだどうやら違うようだと感じた雪乃は続けた。

「それじゃあさ、あの噂も違うのかな?美桜が水波と付き合ってるってやつ」

「……え?」

 雪乃の言葉に美桜は一瞬何を言われたのかわからないというようにぽかんとし、徐々に理解していくとその目を大きくするのだった。

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