第41話 勉強会って何だっけ

 昨日は柊平のお金がない発言から、連休中何をしていたかという話になった四人だが、今日は来月にある球技大会の話が中心になった。ちなみに、連休中の話の中で、杏里は蓮とばったり会ったことを話さなかった。それは杏里にとって大切にしたい思い出だからなのだが、蓮は杏里の事情を聴いていたため、言いたくないこともあると考え、特に疑問にも思わず、自分から話すこともなかった。


 まだ来月の球技大会で何の種目に出るかは決まっていないため、これまでの二年間で何をしたかというのがメインだ。球技大会は男女別フットサル、男女別バスケットボール、卓球、テニスという種目があり、卓球とテニスには男女混合ダブルスもある。

「蓮と柊平は酷いんだよ。一年のときも二年のときも二人は卓球に出たんだけど、全くやる気がないの。すぐに負けて、応援にもほとんど参加しないでさ。それで何してたか聞くと、屋上で寝てたとか、ゲーム機持ち込んでゲームやってたとか二人とも好き勝手に過ごしてたんだよ」

 杏里が残念な人を見るような目で彼らを見やりながら美桜に話して聞かせた。

「いや、球技大会なんてレクリエーションなんだからさ、真面目にやっても……なあ、蓮?」

「そうだぞ杏里。それにああいうのは部活入ってるやつらの独壇場なんだから。後、ちゃんと杏里の応援には俺らも行っただろ?」

「そうそう!」

 それに対し、蓮と柊平はバツが悪そうに言い訳をし、美桜は彼らの意外な一面に驚いたが、それでも知れて嬉しかったのか楽しそうに聴いていた。

「もう!二人ともそんなこと言って運動神経いいんでしょ?体育もほとんどサボってるけど、たまにやってるところ見たときなんかは何やってもすごい上手いじゃん。真面目にやれば絶対活躍できるのに」

 体育は二クラス合同で男女別だが、体育館やグラウンドなど男女で使用する場所が同じことが多々あり、そんなとき結構女子は男子の体育を見ていたり、試合をしているときは応援したりしている。杏里もその一人だったようだ。三年になって美桜も蓮達を見かけることはあるが、残念ながらまだ杏里の言うような蓮達の姿を見たことはない。もちろん逆に男子達が女子を見ていることも多々ある。ただ、男子はどこを見ていると詳しくは言わないが、視点が試合などではなく女子自身だったりする。蓮と柊平はそういう男子とも違い、ただ喋ったりもっと酷いと寝たりしているだけだ。


 その後、杏里の責めが続きそうなのを蓮と柊平で何とか宥め、やっと話題が次に移ったときには二人して安堵の息を吐いた。

「美桜は?一年、二年と何してたの?」

「私は二年ともテニスに出てたよ。すぐに負けちゃったけど、他の種目の応援にも一応ちゃんと行ってたよ」

 言いながら思わず苦笑してしまう。ずっと一人だった美桜は、自分とペアを組むことになったクラスメイトの女子に対して、他の人とペアだったならもっと楽しめただろうなと申し訳なく思ったのだ。それに、応援にしても、ところにいただけ、という方が正しい気がしたから。

 実際のところ、美桜の運動神経は普通なのだが、一年のときも二年のときも美桜とペアを組むことになったのは運動が不得意な自己主張の弱い女子で、クラスの中心にいるような人達に、美桜はそういう女子を押し付けられ、負け確定のように扱われていた。

 そんな美桜の心情を察した訳ではないだろうが、杏里が続ける。

「私は、一年のときに卓球、二年のときにテニスだったんだ。だから今年はフットサルかバスケットに出ようかなと思ってるの。美桜がもしよかったらさ、今年一緒の種目に出ない?」

「っ、…いいの?」

「もちろんだよ!」

「ありがと。…うん、できたら杏里と一緒にやりたいかな」

「やったぁ!じゃあ約束ね!」

 そんな風に話していたら時間はあっという間に過ぎていった。


「……なあ、皆本当に勉強する気あるのか?」

 それはそろそろ美桜が帰らなければならない時間となった頃。蓮以外の三人がそれならと帰りの準備をしているときのことだった。

 三人の動きがピタリと止まり、言葉を発した人物、蓮に目を向けた。

 我に返ったと言うべきか、蓮が呆れたような表情を浮かべて続ける。

「冷静に考えて、ただ喋ってるだけなら俺ん家に集まる必要もないと思うんだが?特に杏里さん?」

 結局今日もジュースを飲んでお菓子を食べて喋っていただけで、勉強なんて一つもしていない。というか、今日は勉強道具をテーブルに出すことすらなかった。蓮もお喋りに加わっていたのだから強く言うつもりはないが、そもそも勉強会を必要としているのは杏里なのだ。それなのに、昨日も今日も彼女が一番楽しそうにお喋りしていた。まあ、彼女がそういうタイプだということは蓮も重々承知しているのだが。

「ち、違うよ?勉強する気はちゃんとあるんだよ?私なんて進学かかってるんだし、あるに決まってるよ。ただ、……今日は初めて蓮の家に来たからちょっと緊張もあったっていうか……。その、だから明日からは真面目に勉強するつもりで。本当だよ?」

 杏里が目を泳がせながら弁明する。

「すみません。私も勉強するつもりはあるんです。前のときもすごく為になりましたし。ただ、皆のこと知れるのも嬉しくて、楽しくて、つい話に夢中になってしまって……」

 美桜がしゅんとなりながら謝る。

「まあ、いいじゃねえかよ、蓮。たまにはこうやって過ごすってのもさ」

 柊平が苦笑しながら蓮の肩をポンと叩く。

「はぁ……。まあいいんだけどさ。多めに休憩挟みながらでいいから、少しずつでもやっていこうな?」

 三人の言葉に蓮は一度ため息を吐き、最後は杏里に向かって言った。

「うん……ごめんね?ありがと、蓮」

 蓮も柊平もテスト前の勉強会なんて必要ないことは杏里にもわかっている。だからこれは杏里を心配しての言葉だ。それがわかっているから杏里もしゅんとなるが、蓮の気遣いが嬉しいのか、口元には薄っすらと笑みが浮かんでいた。

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