第30話 罰ゲームありの勝負

 次に四人が遊ぶのはエアホッケーのようだ。今までやったものよりも身体能力が重視されるだろう。もしかしたら杏里が男子二人を不憫に思って気を遣ったのかもしれない。この後の流れ的に単に楽しんでいるだけの可能性も高いが。

 

 ペア決めをする前に、杏里が場も温まってきて、テンションも上がってきたのか、一つの提案をする。


「ねえねえ、これで一つ賭けでもしない?」

「賭け?」

 杏里がまた不穏なことを言い始めたと蓮が訝しげに見やった。

「そ。負けた方はこの後あそこにあるコスプレをする、ってのはどう?」

 杏里が指差したのはプリントシール機のところにあるコスプレ衣装の数々だった。どうやら無料でコスプレ衣装のレンタルをしているようだ。何度もここに来たことがある蓮の目にも当然これまで入っていたはずだが、全く気にしたことがなかった。

「もちろん、コスプレ内容は勝った方が決めるってことで。まあただの罰ゲームだよ、罰ゲーム」

 柊平と蓮が非常に嫌そうな顔をする。絶対に笑いのネタになるような格好をさせられると思ったからだ。

 どうやってこの流れを阻止しようか考える二人の前に杏里に強力な援護が入ってしまった。

「面白そうだね」

 美桜が、を見て、口角を上げて杏里の言葉に同意を示す。コスプレなんてしたことはないが、日常でしない格好をするというのも面白そうだなと思ったのだ。美桜も高揚感からテンションが上がってしまっているのかもしれない。

「華賀さん!?」「華賀……」

 蓮はそんな馬鹿なといった様子で、柊平はどこか諦観した調子で美桜を見やる。

「さすが美桜!わかってるね!ほら美桜もこう言ってることだし蓮と柊平もいいでしょ?」

 完全に押し切られる流れができてしまった。蓮と柊平はため息を吐くと諦めたようにわかった、と同意を示すのだった。


 これも二対二で対戦するため、じゃんけんでペア決めをする。さすがに女子同士、男子同士では不公平ということで男女ペアになるようにだ。結果、杏里と柊平、美桜と蓮のペアとなった。杏里とペアになった柊平はそっと安堵し、蓮に同情の眼差しを向けた。これで自分は負けても杏里から理不尽な要求をされることはない。

 一方蓮の方はやる気に満ちていた。何としても杏里の言う罰ゲームを受けたくないという後ろ向きの理由からだが。

「華賀さん、頑張って勝とう」

「はい!」

 しかし、ただ純粋に楽しんでいる様子の美桜に力が抜けるのを感じるのだった。


 最初のうちは、一点取るごとにガッツポーズをしたり、軽くハイタッチをしたりと四人ともゲームを楽しんでいるようだった。杏里と柊平がしているのを見たからだろうか、美桜も蓮とハイタッチをするのに抵抗はないようで、蓮が点を取ったときに自分から蓮に向けて手を上げていた。それは美桜が変わってきたからなのか、テンションが上がっているからなのか、それともその両方か、ともかく出会った当初では考えられないことだった。蓮の口元にも自然と笑みが浮かぶ。

 ただ、時間が経過し、パックの数が追加されるとそんな余裕もなくなってきた。形勢は点を取っては取られの一進一退の攻防が続いた。

 そうして、同点で終盤に突入し、最後の一点を取った方が勝ちという状況となった。お互い激しくパックを打ち合い、中々ゴールは決まらない。そんな白熱したゲームだったが、それから間もなく決着した。杏里の打ったパックが絶妙な位置でサイドに当たり、美桜の左側、ゴールぎりぎりに吸い込まれていったのだ。

「やったぁ!」

「おっし!やったな杏里!」

「うん!私達のしょーーりっ!」

 蓮達の向かいでは杏里と柊平が喜び合っており、杏里は蓮達に向かってピースサインをした。そんな杏里に苦笑する蓮。

「負けちゃったな」

「はい。でも面白かったです!」

 少し息の上がった美桜がはっきりと笑顔とわかる表情で言った。

「っ、……そっか。それならよかった」

 一瞬、蓮は息をするのも忘れてしまったかのように固まったが、なんとかすぐに復活した。

(……勘違いに決まってる。ありえないだろ、そんなこと……)

 自身の心の動きが信じられず、蓮はそう結論付けた。


 それから四人は罰ゲームを実施するため、プリントシール機コーナーにあるコスプレ衣装の並んでいるところへと向かった。杏里が隣に立つ美桜の体に一つ一つ衣装をあてがいながらどれにしようかと楽しそうに選んでいる。一方、美桜は少し離れたところから見ている蓮と柊平の目にもわかるほど明らかに顔を赤くしていた。それは数多くある衣装の中で杏里が選ぶ衣装の傾向が美桜にとって恥ずかしい方向に偏っているからだ。なんとか杏里の考えを改めようとしているようだが、杏里は聞き流しているようだ。


「あれ、華賀さん大丈夫だと思うか?」

「どうだろうな。けど杏里も本気で嫌がることはしないだろ」

 女子同士、友人同士、の二人だ。そこは蓮も柊平も杏里を信用している。

「そうだな。……俺はいったい何を着せられるんだろうな」

 だが、男である自分にそんな配慮があるとは思えない。

「まあ、あそこにあるタキシードみたいなのとかサンタとか、そういう無難な感じのものじゃないことは確かだな」

 柊平も今度は悪い意味で杏里を信用した言葉を口にする。

「だよな……」

 蓮は柊平と一緒に杏里達が衣装を選んでいるのを待ちながら大きなため息を吐くのだった。

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