第23話 勉強会が終わった
蓮は土曜日にバイトをこなし、月曜日を迎えた。
杏里は金曜に出された蓮の宿題をちゃんとこなし、月曜にはしっかり暗記してきた。本当にやればできるのだ。おかげで追試までの残り二日は確認が主となった。
この日、蓮は先週までと変わらず過ごした。教室で美桜が何か言いたそうにしていたのはわかっていたが、あえて自分から尋ねることはしなかった。ただし、勉強会の帰り、蓮は昇とのことには触れず、けれど美桜の反応に注意を払いながら、「今日も送っていくってことでいいかな?」と美桜に訊いた。そんな蓮に対し、美桜は「ありがとうございます」と口元に薄っすらと笑みを浮かべながらお礼で返したので、蓮は何事もなかったように、美桜を送っていった。
美桜は美桜で先週の金曜日、昇の前でした蓮の態度が気になっていたが、土日で色々考えてもどう尋ねればいいかがわからず、月曜日を迎えた。自分が悪かった、と昇に謝り、美桜は悪くないと言って頭を下げた蓮に、美桜の方からどうしてそんなことをしたのか、と訊くことはなんだか憚られたのだ。それに、数日ではあるが蓮と色々話ができて、自分に気を配ってくれたのだということは信じられるから。
そして蓮の態度が何もなかったかのように普通だったため、結局自分から触れることはしなかった。もしかしたら蓮だって触れられたくないかもしれないと考えて。
火曜日。追試の前日ということもあり、最後の確認もそこそこに、この日は早めの解散となった。杏里はこの数日本当に頑張ったし、休日に暗記もした。ならば後は当日に疲れが残ってはいけないという理由から元々その予定だったが、蓮としても今日が早めに終わるのは都合が良かった。そうでなければ最終日に不参加、もしくは途中離脱することになってしまっていたから。
蓮は今日も美桜と一緒に電車に乗っていた。結局この一週間は毎日だ。美桜も蓮といることに大分慣れてきていた。
「今日で勉強会も終わりだな」
「はい」
「どうだった?やってよかったかな?」
「はい。…私、勉強は一人でやるものだってずっと思ってたんです。けど、皆でやってみて、いつも一人でしてるときよりも気持ちが楽だったというか、楽しかったです。杏里には本当に感謝してます」
「そっか。それならよかった」
「むしろ私からしてみれば、天川君や日下君に負担ばかりかけてしまって申し訳ないです」
「負担なんて全くないよ。どうせ杏里には教えることになったんだし、そう思うべきなのは杏里の方だな。まあそれでも杏里のことだって負担ではないんだけどな?友達としてできることをしただけだし」
美桜の口元に笑みが浮かぶ。今の言葉にも蓮の優しさが溢れているような気がしたから。
一方、蓮はそんな美桜を見て、最初の印象の方が間違っていたんじゃないかと思うくらい、この一週間で本当に表情が豊かになったなぁとそんなことをあらためて思っていた。
「あの……今度、もしまたやることがあったら……そのときもご一緒して、いいですか?」
「ああ、もちろん」
意を決して訊いた美桜に対して蓮の回答は拍子抜けするほど簡単な、けれど美桜のほしかったものだった。
「ありがとうございます」
美桜の嬉しい気持ちが表情にも出ていた。
それから蓮が思い出したように美桜に訊いた。
「そう言えば、華賀さんは甘いもの好きなんだっけ?」
「え?ええ。人並に好きだと思いますけど?」
「そっか。今度行くビュッフェだけど、たぶん杏里からもっともっとって次々勧められると思うけど、これ以上は付き合いきれないと思ったらちゃんと断ってな?杏里の奴マジでとんでもなく食べるから」
「そんなにですか?」
「ああ。甘いものなら本当にいくらでも入るんだと」
「それであんなにスタイルがいいなんて……」
「くくっ、杏里の前でその辺の話題は言わない方がいいかも。前に柊平が言ってめちゃくちゃ怒られてたから。」
前に三人でデザートビュッフェに行ったときのこと。
『そんなに食べたらつくべきところにつかずに、つくべきところじゃないところばかりにつくんじゃないか?何がとは言わないが』
『アァッ!!?何が言いたいのかな?柊平は。私だってまだまだ成長してるんだからね!』
柊平の言葉は杏里の気にしていることをずばり言い当ててしまったようで、あのときは本気で気温が下がった気がした。柊平もあんな辛辣なことを言わなければいいのに、と蓮は呆れたものだ。今言った美桜の言葉とは全然意味合いは違うがその一件で蓮の中で杏里にスタイルの話はご法度というイメージができてしまっていた。そして特に美桜に言われたら応えるだろう、と蓮は思った。
ちなみに杏里は細身で均整のとれた女性らしい体つきをしている。ただまあ、つまりはどこがとは言わないが、ない訳でもないけど大きいと言えるほどのサイズでもない訳で……。逆に美桜はとてもメリハリのあるスタイルをしているのだ。
「?……そうなんですね。でも食べても太らないなんて杏里が羨ましいです」
「華賀さんもそういうこと気にするんだ?全くそんな必要ない気がするけど」
「私が見た目に気を遣ってないように思われるのは仕方ないですけど、私だって気にしますよ」
心外だと言うように美桜がジト目を向ける。美桜だって女の子なのだ。勝手に成長していった胸のせいで全体的に太って見えることを美桜は気にしていた。
「あ、いやそういう意味じゃないんだけどな……。ごめん」
じゃあどういう意味なのかと美桜は首を傾げたが、蓮は本当ごめん、忘れてくれと誤魔化すのだった。
それから美桜と別れた後、蓮は急ぎ反対の電車に乗り、バイトに向かった。
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