第9話 実力テストの結果

 美桜の隣では、蓮の席を中心にして、蓮と柊平を含めた男子四人が成績表のことでお喋りをしていた。

「俺ギリ赤点無かったわー。追試とかマジだるいからよかったぁ」

「お前、中間、期末で頑張んないとマジで推薦ヤバいんじゃない?」

「いや、行きたい学部とかねえし、行ければいいから大丈夫だって」

 危機感を煽るように言われるが、本人は大して気にしてないようだ。

 言った側の男子は平均点はクリアしているし、順位も中盤を維持している。

「まあ確かに赤点続きとかでない限り進学はできるからなぁ」

 そこで赤点ぎりぎりだった男子が柊平の成績表を覗き見ながら言う。

「柊平、去年も思ったけどお前なんでこんなに点数いいんだよ。授業はいつも寝まくってるってのに。ずりーぞ」

 彼ら四人は二年のときも同じクラスだったようだ。

 柊平はすべての教科で二十位以内だった。

「まあジツリョクってやつだな」

 ニヤッと笑いながら答える柊平。

 そこに嫌味な感じがしないのが柊平のいいところだろう。

「かーっ、腹立つのに言い返せねぇ。頭いい奴はこれだから」

 柊平に話を振った男子が呆れたように言う。

「いや、そんなこと言ったらこの中じゃ蓮が一番ヤバいからな?」

 そこで柊平が蓮を巻き込んだ。

「そういや蓮っていつも上位だよな?」

「まあそれなりに勉強はしてるからな」

 柊平が自分から話を逸らすために振ったのだとわかった蓮は、苦笑を浮かべながら答えた。

「今回何位だったか見せてくれよ」

 乞われた蓮が成績表を見せるとわっと声が大きくなる。

「おま、なんだよこの数学の点数!平均四九点なのに九八点って。しかも実テって理系クラスと同じ内容だろ?それなのに数学一位とかヤバすぎだろ」

「まあ、数学はもともと得意なんだよ。他は柊平とあんまり変わらないだろ?」

 蓮の苦笑が濃くなる。

 数学だけが突出しているだけで、英語は十二位、国語は十五位だった。

 確かに英語と国語を見る限りは柊平とあまり差はない。

 それでも十分いい成績ではあるが……。

「確かに英語と国語は数学よりは低いな。それでも総合六位ってんだから数学どんだけだよって話だけど」

「ってかマジで何で蓮が文系クラスにいるんだよ。やっぱ完全にネタだろ」

「ネタで文理選択する訳ないだろ」

「やっぱ明政で一番レベル高いし、法学部狙ってんのか?」

「……いや、まあどうだろうな。まだ決めてないんだ」


 男子四人でそんな話をしていると女子生徒が一人、蓮と柊平に泣きついてきた。

「れーんー。しゅーへー。べんきょー教えてー」

 呼ばれた二人が話を止め、そちらを向く。

 見る前から誰が言っているのかは二人ともわかっていた。

「杏里、もしかしなくてもまた赤点だったのか?」

 代表して柊平が呆れたように訊いた。

 高頭杏里たかとうあんり

 蓮、柊平、杏里の三人は一年の頃からずっと同じクラスだ。

 蓮と柊平が腐れ縁なように、杏里とも一年の最初の頃からなんだかんだ親しくしている。

 明るい髪色に少したれ目の可愛らしい顔つき、制服も自分に合った感じに着こなしている。

 性格も明るく、男女共に好かれるタイプだが、如何せん勉強は壊滅的だった。

 そこがまた親しみやすさを相手に与えている部分もあるかもしれないが……。


 そんなよく知る杏里だからこそ、これまで何度も繰り返されてきた彼女のヘルプ内容を二人は正確に理解していた。

「うっ!?……だって全然わかんなかったんだもん……」

 今はその目元に薄っすら涙を浮かべている。

「はぁ……、マジで推薦取れなくなるぞ?」

 柊平が小言のように言う。

「わかってるよ!柊平の意地悪!……今回の実テまではいいけど、今年の定期テストは一つでも赤点だと推薦はないぞってさっき先生に言われた……」

 杏里は言われたくないことを言われたというように怒ってみせるが、すぐにしゅんとなってしまった。

 そんな杏里の様子に蓮は苦笑を浮かべる。

「それで追試はどの教科なんだ?」

「……ぜんぶ……」

 杏里の呟きに蓮と柊平は言葉を失くす。

 三教科すべて赤点だとはさすがに思っていなかった。

 これまでの経験から国語、数学、英語であれば、数学だけか、プラス英語もありえるかも、くらいに思っていたのだ。

 それでも実力テストの追試対策はまだいい。

 いや、良くはないんだが、それよりも、そんな成績を取っている相手に今後ある定期テストすべてで一つも赤点を取るな、という担任の言葉と合わさったときの絶望感だ。

 定期テストには追試の制度はない。

 赤点を取ったらそれで終わりだ。

 さすがに本当に一つでも赤点だったら推薦なしとは思いたくはないが……。

「……ちなみに、今回の実テに向けて勉強は……」

「…………」

 蓮の言葉に杏里は無言で首を横に振る。

「……して、ないよな。勉強は今日から?」

 杏里の回答は蓮の予想通りだった。

 これまで一年の頃から杏里は基本的に定期テストでも大して試験勉強をしていない、ということは知っていた。

 そんな彼女が実力テストのために勉強するなんてことはないだろう。

「できれば……」

 チラッと蓮を見る杏里。

「……わかった。とりあえず、追試対策するか。定期テストは……多分時期的に二学期の中間までが内部進学決定の対象だと思うから、後三回だな。本当は日常的に勉強するのが一番ではあるんだけど……、今まで赤点取ったことがある教科に絞って試験前に対策しよう?」

 定期テスト対策について正論を言った蓮だったが、そのときの杏里の絶望したような顔を見て、現実的な対策案を言った。

 今までも一度赤点を取って教科担任に警告されると次のテストの時には蓮達に勉強を見てもらって赤点を回避する、ということを繰り返してきたのだ。

 そのメインが数学で、サブに英語、理科系科目という感じだった、はずだ。

 暗記系は苦手にしていないイメージがある。

 つまり杏里はやればできる人間、ということだ。

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