第3話 日直は席が隣同士の二人で行うもの
翌日、蓮が男子達と話しているときに、始業式の日の朝にあった話をしたところ、何人かが苦笑を浮かべた。
どうやら彼らは美桜と同じクラスになったことがあるようだ。
そして、あいつはしょうがないと蓮を慰めるように話してくれたところによると、彼女は一年の頃から悪い意味で目立っていたらしい。
これまで関わりがなかったため、蓮は全く知らなかった。
美桜は、誰に対しても無表情の塩対応で、唯一、
昇は中肉中背のあまり特徴のない普通の男子だ。
彼とも三年の今、蓮は初めて同じクラスになった。
一年の頃からそんな風で、一緒に登下校しているところを見た者もおり、二人は付き合っているのだろうと専らの噂だそうだ。
なぜ噂か、というと、その昇本人が否定も肯定もしないかららしい。
美桜にわざわざ確認する強者はいないようだ。
その後は段々美桜に否定的な言葉を並べ始める男子達。
曰く、性格が悪すぎる。
見下されている感じがする。
ちょっと見た目がいいからって調子に乗っているんじゃないか。
愛想の欠片もない。
可愛げが全くない。
表情もほとんど変わることがない様子から機械もしくは人形のようだと言う者もいた。
ただ、そんなことを言いながら制服のブレザーの上からでもその胸元を高く押し上げていることがわかるスタイルはつい目が行くよな、などと言い、それに同意する男子達はいったいどういうつもりで言っているのだろうか。
それでも、一年の当初は真面目そうで、綺麗系の顔立ちをした彼女と男女ともに仲良くなろうとする者もいたそうだが、誰に対しても無関心で何か話しかけても機械的に答えるか、反応が薄い彼女と話すのは拒絶されている感じが半端じゃなく、無理だと早々に判断されたようだ。
二年でも似たような流れはあり、その二年間で、痛感した彼らはもちろん、彼女がどんな人かという噂も広まっていき、彼女自身と仲良くなろうとする者はもういないらしい。
まだまだ続きそうだったので、蓮はその場を離れることにした。
自分から振ってしまった話題ではあるが、美桜の悪口を聞きたかった訳ではないのだ。
ただ、自分との話し方や彼らの言葉から誰も寄せ付けない孤高の存在というか、対人関係のあり方がそういう人なのだとしたらこれから少し大変そうだな、という思いを抱き、蓮は溜息を吐いた。
そんな蓮の不安はすぐに的中する。
日直は席が隣同士の二人で行うことになっている。
そしてこういうものは基本的に出席番号の若い順からだ。
つまり、三日目に蓮と美桜は二人で日直をしなければいけなくなったのだ。
朝、蓮が教室に着くとまだ美桜の姿はなかった。
蓮は荷物を机に置くと日直として職員室に日誌を取りに行った。
職員室から教室に戻ってきて少しすると美桜が教室に入ってきた。
もちろん二人の間に朝の挨拶などない。
美桜は鞄を置くとそのまま再び教室を出て行った。
そしてしばらくして戻って来ると蓮をじっと見てきた。
だが何も言おうとはしてこない。
そんな視線に耐えられなくなり、蓮は内心ため息を吐き話しかける。
「華賀さん?どうかした?」
「……いえ、……天川君、日誌ですけど……」
「ああ、それならさっき持ってきたから」
そう言って机の物入れから日誌を取り出す。
もしかしてさっき教室を出て行ったのは、日誌を取りに行っていたのだろうか。
だとしたら一言声をかけてくれればいいのに……。
「それ、私が書きますから……」
「え?いや、それくらい俺がやるよ」
「私が書きますから」
蓮の言葉に食い気味に発せられた美桜の言葉。
美桜の有無を言わさぬ雰囲気に蓮は若干引いてしまう。
「……そう?じゃあ頼んだ」
これ以上こんなことで問答などしたくない蓮は素直に日誌を美桜に渡すのだった。
「号令も私がやりますから」
「……わかった。じゃあ黒板消しは俺がやるよ」
「…………」
そこで思わず小さくため息が漏れてしまう。
蓮としても美桜に関心があるとか仲良くなりたいとかそういうことではなく、会話が成立している気がしないというか、コミュニケーションがうまく取れないのが疲れるのだ。
こんな事務的なやり取りだけでもぎこちない感じになってしまう。
結局、休み時間の黒板消しも蓮がやると言ったにもかかわらず、美桜も一緒に行った。
何だか自分が美桜にすべてを押し付けているようで居心地が悪かったが、黙々と行う美桜に蓮はもう何も言うまいと思った。
放課後。
教室内には二人以外もう誰もおらず、静かな時間が流れる。
最後の日誌を美桜が書いているのを蓮は隣で見ていた。
美桜にやらせておいて自分だけ先に帰るのは違うと思ったからだ。
ただ、二人の間に会話は全くなく、書いてくれている美桜には悪いが早く終わってほしいと願いながらだった。
日誌を書き終えた美桜は、そのまま帰りの準備を始めた。
「華賀さん、日直の仕事、任せきりにしちゃってごめん。ありがとう」
「……いえ、私は日誌を職員室に持っていくので」
そう言って美桜は鞄を持って立ち上がる。
「あ、それなら一緒に―――」
「一人で大丈夫ですから」
「……そっか。わかった。ありがとう。それじゃあここで。また明日」
「…………」
ぺこりと頭を下げると美桜はそのまま教室を出て行った。
こうして蓮にとっては無駄に疲れる日直が終わった。
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