第6話 悪役令嬢は交渉する

情報ギルドで情報を得るにはベタだけど合言葉が必要だ。

普通なら公爵令嬢が知り得るはずのない言葉だけど、もちろん私は知っている。


カフェのカウンターでコーヒーを入れるマスターに、

「red bean pasteをいただきたいのだけど」

と言えばOKだ。


マスターは目を見開いて私を凝視した。

そりゃそうよね。

こんな小娘が情報ギルドに何の用かって話だし。


何より、合言葉は簡単に知ることができないから彼が驚くのも無理はない。


…それにしても、なぜ合言葉が『あんこ』なんだろう。

いや、私もあんパンとか好きだけど。


ここらへん、世界観が西洋風のはずなのに日本っぽさが出てしまっている。


「お嬢ちゃんみたいな子にはred bean pasteは必要ないと思うが?」

当然マスターは警戒した。


私の背後に誰かがいて、その誰かに私が遣わされていると思っているのかもしれない。

いやいや、あなたたちを必要としているのは私です。


「あら?こちらのお店は客を選ぶのかしら?」

じっとマスターの目を見て話す。


睨み合いに負けたらおしまいだ。

せっかくここまで来たのに何の成果も得られずに帰るなんてとんでもない。


「いや…そういうわけではないが…しかし、なぁ…」

案外このマスターは気の良い人なのかも。

彼の言葉からはこちらを心配するような、気遣う気配を感じた。


「どんな客でも、合言葉を知っていればOK、ですわよね?」

だからにっこりと笑って言う。


情報ギルドに来てどんな結果になろうとも、それは客の責任なのだから。


「…はぁ…わかったよ。上の部屋に案内しよう」

私はマスターの後に続いて店の奥の階段へ向かった。


「お嬢さま、護衛としてはお嬢さまの身の安全を守ることだけが仕事なのですが、それでよろしいですよね?」

私の行動に面倒ごとの気配を感じたのかダグラスが念を押してくる。


うんうん、君の行動には矛盾がないね。


「もちろんですわ」


だから私も簡潔に答えてあげた。

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