第3話 悪役令嬢は現状を把握する
体調がすぐれないことを理由に部屋で少し遅めの朝食を済ませた後、私は休むからと人払いをしてソファに腰掛けた。
メアリが入れてくれた紅茶をお供に頭の中の整理と今後の対策に勤しむ。
そもそも『黄昏の時にあなたを想う』は典型的な悪役令嬢断罪系の話だった。
ヒロインは平民として育ちながらも男爵家の娘であったことがわかる少女であり、その少女と身分違いの恋に落ち、後に添い遂げることになるのがこのグラント国の王太子であるライアンだ。
そしてご多分に漏れず、二人の邪魔をして恋のスパイスをふりかけた後断罪されて退場するのがライアンの婚約者でもある悪役令嬢のエレナ。
そう、つまり私である。
いわばなんの捻りもない話ではあるが、わかりやすい話というのは往々にして支持されやすい。
物語は男爵家の娘であることがわかったヒロインがオルコット学園へ入学し、さまざまなイベントののちに年度最後の舞踏会で悪役令嬢を断罪して王太子の婚約者におさまるまでが描かれている。
美麗なイラストも相まって爆発的な人気を博し、次はアニメ化予定というニュースを聞いたところまでは覚えていた。
現在エレナは14歳。
オルコット学園は15歳から18歳までの貴族令息と令嬢が通う学園であることを考えても、今度の4月から一年間が物語の舞台となることは必須だった。
つまり、対策を立てようにもあと3ヶ月しか時間が無い。
「ううう…」
詰んだ…。
覚えている限りのことを書き出したノートを前に、私は美少女にあるまじきうめき声を上げながら項垂れた。
3ヶ月。
3ヶ月かぁ。
いやいや、項垂れている場合ではない。
断罪されたら先はないのだから。
ヒロインがどのヒーローのルートを選ぶかで多少の違いはあるが、断罪後のエレナは良くて修道院行き、悪ければ死罪だ。
えええ…。
人を殺したわけでも誰かに傷を負わせたわけでもないのに死罪。
現代日本に暮らしていた前世の記憶がある身としては信じられない罪状だ。
最悪国を追放されるとかならいいんだけど。
貴族令嬢の経験しかなければ難しいだろうが、今の私ならなんとか暮らしていけそうな気がするし。
それともいっそのことそうなるように目指す?
いやいや、なんで何も悪いことをしていないのに断罪されないといけないのよ。
…無理。
無理無理。
納得できない。
ああ。
何だかムカついてきたわ。
やりたい放題のやつらをそのままにしておいてもいいのか、という気持ちが拭えなかった。
とりあえず対策を練ろう。
まずはできることをやり切ってから、それでもダメなら次善策を考えるしかない。
そう心を落ち着かせると、私はノートを閉じた。
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